写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

シグマDP1メリルを使ってみました

 最近気になっていたのがシグマのFOVEONセンサーを搭載したコンパクト機“DP1メリル”と“DP2メリル”です。シグマのFOVEONセンサーというと、ご存じのように3色分解のカラーフィルターを使わずに、センサー(シリコン基板)そのものの特性を利用して、1つの画素からRGBの3信号を取り出すという独自なもので、結果として画素数的に×3という表示になっています。実は、僕は最初にフォビオンセンサーを搭載した2002年の「SD9」が発売されたころにはサクラの花びらがよく写るとか、2003年の「SD10」ではUV/IRカットフィルターを取り外して代わりに赤外フィルターを取り付けてデジタル赤外写真に挑戦したり、2008年の「DP1」では当時人気のリコーGRデジタルと比較したりと、結構フォビオンセンサー搭載のシグマで遊んできました。そこで最近気になっていたのが、高画素タイプのフォビオン・メリルセンサー搭載の“DP1メリル”と“DP2メリル”なのです。メリルには、一眼レフのSD1もありますが、シグマの山木和人社長によると4,600万画素という高画素性能を存分に発揮するためにはレンズシャッター式のカメラがベストだということなので、一度じっくりと試してみたいと思っていたわけです。
 ところでFOVEON社は、1997年にnational semiconductors社が70%とsynaptics社が30%出資し、Dr.Carrer Meadという人が設立したベンチャー企業です。2008年にはシグマの傘下となり、組織的にはSIGMA USAの下部になるそうです。本社の所在は、カリフォルニア州サンタクララ(元ナショナルセミコンダクターの本社があった所)にあります。その社名であるFOVEONの由来は、眼球の網膜の中心窩がFovea centralisということと、開発メンバーの名前を組み合わせたそうです。従業員数は35名、FOVEON社自体は設計会社なので、センサーそのものの製造は韓国のDong Hightech社で行っているとのことです。なおこの時期から投入されたメリルは、開発者の一人で技術者であり写真家でもあったDick Merrillというの人の名前からとったそうです。
 さて、前置きが長くなりました。さっそく使ってみましょう。まず悩んだのが、“DP1メリル”と“DP2メリル”のどちらにするかということです。DP1メリルのフォビオンセンサーはAPS-Cで、従来は1.7倍でしたが、メリルからは1.5倍換算となりました。つまり、DP1メリルは19mm F2.8を搭載し、35mm判換算28mm相当画角となります。DP2メリルは30mm F2.8を搭載し、35mm判換算45mm相当の画角となります。僕的には、35mm判換算35mm相当画角になるのがいろいろ考えるところがあっていいのですが、ないものねだりはやめて、ここではDP1メリルつまり28mm相当を使ってみました。とはいっても外観写真ではDP1メリルとDP2メリルの差はわかりにくく、レンズ前玉寸法の判別やトップカバー上の文字とレンズ枠に刻まれた文字を読まないとほとんど区別できません。
 それでは実写結果です。最初の撮影場所は、すっかりおなじみとなった英国大使館正面玄関です。いつもカメラと三脚持参で撮影するので、最近は黙って撮影させてくれるようになりました。

【シグマDP1メリル】いつもの場所を基本的には同じ条件で撮影してみました。AFポイントは画面中央部から9ポイントを選択できますので、上段左右中央にセットし、建物のエンブレムとしてあります。全体的に清涼感ある発色で、撮影ファイルは、4704×3136ピクセルとなりました。掲載は左右640ピクセルVGAにリサイズしました。絞り優先AE(F5.6・1/800秒)、ISO200。

【シグマDP1メリル】上の写真のエンブレム部分を画素等倍に拡大し、クロップしてお見せしました。いかがでしょうか。エンブレム文字がしっかりと読めること、壁の凹凸感が描写されるのも高画素タイプならではです。同様なところまで描写できているのはライカMモノクロームとズマリット35mmF2.5の組み合わせです。さすが高画素タイプの画像は違うということを、まざまざと見せてくれます。三脚に載せての撮影ですが、複数枚撮影した全カットが同じようなクオリティーで仕上がっているのも好感もてます。


【シグマDP1メリル】近所の公園で撮影しました。上が画面全体。下がピクセル等倍のクロップ画像です。プログラムAE(F8・1/400秒)、ISO200。こちらは手持ち撮影ですが、撮影結果を見るとブレを感じません。手前のワイヤーにAFロックして撮影しましたがAF性能は高いと感じました。また背景の建物の縁を左端に入れてみましたが、この画からは特別なディストーションは感じません。わずかに建物壁面が青みを帯びているのが気になりますが、不思議とこの戦前のコンクリートの建物だけがこういう発色を示しましたが、色としては十分に調整の範囲内です。それにしても、画素等倍にアップした金属ワイヤーの質感、さらには前後の草などの描写特性は素晴らしいに尽きます。
 FOVEONの高解像特性はいかがでしたか。このメリルのセンサーは、有効画素数で4,600万画素(4,800×3,200×3層)、記録画素数4,400万画素とされています。このうち記録画素数は4,704×3,136×3層ということから導き出されています。ところが実際の画質は、どのくらいかということになりますが、解像感という言葉で表せるならば、約70〜75%、つまり3,000万画素相当の描写ということになります。この値はシグマの山木社長から示された数値ですが、これは以前このライカMモノクロームのブログで私が示した考え方を当てはめると、3,000万画素相当の画質ということができ、当たらずとも遠からずという値です。この高解像度は、単に撮像素子から得られる画素数だけでなく、撮影レンズの性能がものをいうのも間違いありません。DP1メリルとDP2メリルはレンズ非交換のコンパクト(ミラーレス)機です。山木社長によると、一眼レフのミラー、シャッター走行によるブレの発生は避けがたく、このためには高画素機はミラーレスが一番いいということでしたが、これだけの画が手持ちでも簡単に撮影できてしまうのはびっくりです。あなたは画角28mm相当のDP1メリルですか、それとも画角45mm相当のDP2メリルですか?作品制作派、大伸ばし派には見逃せない1台です。