写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

オリンピック開会式の暗箱カメラ

 7月28日、日本時間午前5時から204の国と地域が参加したロンドンオリンピックの開会式が始まりました。各国の入場に引き続くアトラクションは、アカデミー賞映画監督のダニー・ボイル氏演出によるもので、イギリスの伝統的な田園風景や、18世紀から19世紀の産業革命のさまざまな過程などの再現ショーが披露されましたが、そのなかで僕が瞬間的に目を凝らしたのは、溶鉱炉の平炉から銑鉄が流れ出すシーンの直前に、組み立て暗箱式のフォールディングカメラが6〜8台くらい黄金色真鍮鏡胴のバレルレンズを付けて脚に立って並んでいるのが見えたことです。あのカメラは何だったのでしょうか。見た感じと大きさからすると、乾板式で4切か6切判のイギリス製パテントカメラの類ではないだろうかと考えました。およそ33億円をかけたといわれる豪華な開会式ですが、あの複数のカメラは、式に合わせて同じ機種の古典カメラを集めたのでしょうか、それともこの時期に改めて復元したのでしょうか、興味は尽きません。1865年から1900年ごろは、第二次産業革命の時代と呼ばれ、鉄鋼などの産業分野で技術革新が進んだ時代だといわれています。写真というかカメラの製造は、1800年代初頭のフランスに始まり、1800年代後半から1900年代中頃までのイギリス製カメラの台頭、さらにこれにオーバーラップするように、アメリカ製カメラや1900年代に入るとドイツ製カメラ、さらに日本製カメラへとカメラ製造の国は転移していくわけですが、イギリスの産業革命史のなかにしっかりとカメラ製造が記されており、それも木製の組み立て暗箱で今回のロンドン・オリンピックの開会式に堂々と登場したわけですからなるほどねと感心してしまうのです。

 ということで、本当は開会式に登場カメラのカットでも掲載できればよかったのですが、残念ながら記録していません。また時代を合わせたイギリス製の組み立て暗箱をということも考えましたが、手元に適切な写真がないのであきらめました。そこでたまたま夕方新宿駅を通ったら、この日は“新宿エイサー祭り”をやっていました。常時携帯のコンパクトデジタルカメラで撮った中の1枚を掲載させていただきました。オリンピック開会式には負けないように頑張ると挨拶あっての祭りでしたが、それにしてもコントラスト・位相差検出方式併用のコンパクトカメラでのシャッターチャンスはたいへん難しいことを改めて認識しました。