写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

僕のブログの役割

 僕のブログは、なぜか幅広い方々に読まれているようです。昨年ある時期、カウンターを入れてどのくらいの方が見にこられているのかなと、調べたところ、平均して毎日600人の方が見に来てくださっているのです。これは大変だというわけですが、だからどうしようということでなく、基本的には、自分が気づいたことを気軽に乗せていこうと考えていました。そんなときに旧知であるキヤノンの桑山哲郎さんより、元キヤノンの専務取締役であった田島晃さんが4月9日(享年71歳)にお亡くなりになっていたという連絡が入ったのです。桑山さんは博士(芸術工学)で、ご自身のお仕事以外にも幅広く光学やカメラ、写真などを極めている方で、3Dや光学技術史方面では知られた方です。桑山さんいわく、

レンズ設計者としての功績を広く皆さんにお伝えするのは「技術史研究家」を自称している私としてはぜひしなければならない行動と考え、お願いした次第です。

 つまり、僕のブログで紹介して欲しいというわけで、なるほどと思うわけです。
 そこで改めて、田島晃さんのことを思い起こすと1973年に発売された「キヤノンFD35-70mm F2.8-3.5 S.S.C.」レンズを設計されたことです。このレンズは、当時ワイド系を含むショートズームとしては画期的なもので、キヤノンカメラミュージアムにも『広角側の焦点距離を35mmとした、発売当時世界最初のショートズームレンズ。全く新しい2群ズーム方式の確立により単焦点レンズに匹 敵する高画質化を実現、こ れ以降に次々と登場するショートズームのパイオニアとなった。F2.8-3.5の大口径、 使い勝手の良い2倍のズーム比や0.3mまでの近接撮影が可能なマクロ機構も搭載し、近代光学史にその名を止める名作レンズである。』として紹介されています。当時を知る人にとっては、今でこそワイドズームはあたりまえですが、まだまだ他社が本格的な標準ズームを出し切れていないときでもあり、高画質であったのが懐かしい思い出かもしれません。
 田島晃さんとは何度かお会いしていますが、田島さんが現役時代は、ずーっと年賀状をやりとりする関係でもありました。何年か前にはレンズ部門のある宇都宮から体調を崩し、本社に戻ったとお会いしたとき報告を受けました。そしてもうひとつ覚えているのは、このキヤノンFD35-70mm F2.8-3.5 S.S.C.の登場にあたっては、当時3人のレンズ設計者がキヤノンの社内コンペで競い、結果として田島晃さんの設計が採用されたのです。このほかのお2人はということですが、以前このブログでも紹介したキヤノンからタムロンへ移籍した高野栄一さんと、田鍋昭さんだったと記憶しています。僕の記憶が正しければ、田鍋さんは、ある時期にキヤノンの子会社でコーティング材料やホタル石を作る会社のキヤノンオプトロンの社長さんになられて転籍されたと、聞きましたが、それ以降はわかりません。そして、1本のズームレンズ開発の陰には、複数のレンズ設計者のさまざまな歴史があるのだなと思う次第です。ご冥福をお祈りいたします。