写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

アンスコ・バイキングで撮る

 夏休みを利用して北海道にやってきました。涼しい大自然を前にじっくりと写真を撮ってみたいと考え、6×9cm判フィルムカメラの“Ansco Viking 4.5”を持参です。いまさらフィルムなんて思わないで欲しいのですが、やはりこのクラスの中判カメラにはそれだけのパワーを秘めているのです。そして写真を撮影する行為が、いつのまにかデジタルの便利さの中に埋もれてしまうのではと考え、ときどきフィルムカメラを引っ張り出すのです。でも、一度、おぼえたフィルムカメラの撮影法は、子供の頃におぼえた自転車の乗り方と同じように簡単には忘れないのです。6月に来たときは、ラベンダーも何もかもが早すぎましたが、ここ紋別はちょうどいい時期です。

 さてアンスコ・バイキングですが、第二次大戦後の1952年にアメリカで発売されました。企業としての創業は1800年代で、アメリカではコダックと並ぶ歴史ある写真企業で、スタジオ用のアンソニーカメラの会社としてスタートし、その後スコービル社を買収して、Anthony & Scovill社となり、1907年にAnsco社と社名を短縮。1928年にドイツのアグファ社の資本参加でアグファ・アンスコとなり、1939年にはGAF(ゼネラル・アニリン・フィルム)となりカラーフィルムやカラーペーパーを供給していましたが、1997年には一般写真の分野から撤退しました。

 少し前置きが長くなりましたが、カメラそのものはきわめてシンプルで、距離計もなく目測式でレンズはトリプレットタイプのアグファ・アグナー105mmF4.5付きです。ミュンヘンアグファカメラ社で作られていますが、アメリカ占領下のドイツというようなことが銘板に書き込まれているのが、時代を感じさせます。6×9判で105mmというと、35mm判で46mm相当の画角となりますので、一般的な標準より少しワイドですが、昨今の作画傾向からすると少し長めな感じで、北海道のような広大なところで生きてくる画角です。ところで、このアグナー105mmF4.5というレンズすこぶる描写がいいのです。その理由は、単純な3枚構成であることにより、解像感、立体感があり、単層膜コーティングため、高いカラーコントラストで大変スッキリとした描写を示すのです。最近、僕が中判で撮影するのは、1932年製のフォクトレンダー・ブリラントのスコパー7.5cmF4.5、1950年製フォクトレンダー・ペルケオIのバスカー75mmF4.5などいずれもトリプレットタイプです。
 さて、うだうだといろいろ書きましたが、ここでは撮影結果をお見せすることはできません。東京に帰ってから現像して、ゆっくりとプリントしてみましょう。楽しみは後に、それがフィルムカメラのもうひとつのいいところでもあります。