写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

1950年代日本製大口径レンズの実力

ブログを開始した当初、ライカM9の発売時期と一致したので、デジタルならではの高感度と合わせて、往年のライカスクリューマウント大口径の「ズノー50mmF1.1」と「フジノン50mmF1.2」レンズで遊んでいました。裸電球の下「こどじ」での絞り開放で撮る1950年代大口径標50mm準レンズでのポートレイトの描写特性はなかなかで、開放絞りでのピント精度もさることながら、フィルム時代に見ていた感じとはまったく別な、ワンランク、いや2ランク?ほど上質な画が得られるのに驚きました。また「treizieme ordre」さんから“日本発レンズ飛躍の時代を象徴する、貴重な同時代のご意見記事も期待しています!”とコメントをいただいておりましたので、何とかご期待に沿えようというのが、今回です。


そしてなによりもその時点で「ノクチルックスM50mmF0.95 ASPH.」を手にすることができましたので、1950年代国産ライカスクリューの大口径50mm標準5本のレンズとともに一気に撮影と相成りました。撮影にあったては身近に協力者を得て“味わい深い男性モデル”となりましたことをご了承下さい。
画質評価はなによりも実写画像を見ていただくのが最良ですが、ブログという性格上ピクセル等倍では掲載できませんので、左右640ピクセルにリサイズしてあります。ピントは眼鏡ガラスの奥の目に合わせました。どこまで、本来の画質を見られるかは不明ですが、ピクセル等倍で見られるようにとのことは今後の課題とさせていただきます。
表は発売順に銘板の正式名称で、写真掲載の順は被写界深度並びにボケ具合が開放F値によってどのように変わってくるのかがわかりやすいようにと、口径の大きい順から並べてあります。さらに、フィルター径と重さを載せておきましたので、トップ写真と合わせて見ていただければ、だいたいの持った感じなどがわかるでしょう。撮影距離はすべて最短の1m、細かい画質は別にすれば、少なくとも画面左端の柱を見ていただければ、ディストーションの発生具合だけはわかるでしょう。また、ノクチルックスM50mmF0.95 ASPH.は、参考までに最後に掲載しますが、これだけは京都ライカブティックの方へ飛べば同じカットをピクセル等倍で見ることができます。
なお、写真の下の文章が各レンズ名称で、撮影データ並びに解説を示しています。それぞれのレンズの開放時被写界深度は、撮影距離1m、許容錯乱円0.026mmで計算してあります。

■ズノー50mmF1.1(ライカM9、絞りF1.1開放・1/500秒、ISOオート、AWB)。解像的な描写からすると柔らかいが、ピントのきたところはしっかりとしている。顔、セーター、背後のポスターからすると赤の発色が強調されている。計算による開放時被写界深度は21.8mm。

■フジノン50mmF1.2(ライカM9、絞りF1.2開放・1/353.6秒、ISOオート、AWB)。解像的な描写からすると、柔らかななかにもシャープな感じを受ける。ディストーションは1950年代レンズの中では軽微。背後のビールのポスターの文字からすると、1950年代の玉では最もぼけ具合が大きく感じるが、ディストーション、ボケ具合ともレンズタイプからくるのだろう。計算による開放時被写界深度は23.7mm。

キヤノン50mmF1.2(ライカM9、絞りF1.2開放・1/353.6秒、ISOオート、AWB)。解像的な描写からすると柔らかいが、発色は自然な感じ。計算による開放時被写界深度は23.7mm。

ニッコールSC50mmF1.4(ライカM9、絞りF1.4開放・1/250秒、ISOオート、AWB)。解像的な描写からすると柔らかい。ディストーションは1950年代レンズの中では軽微だ。計算による開放時被写界深度は27.7mm。

キヤノン50mmF1.4(ライカM9、絞りF1.4開放・1/250秒、ISOオート、AWB)。発色も良好でコントラストもある。解像力も一番あり、アウトフォーカスした右背後の人形衣装の描写も崩れていない。やはり1950年代最後の設計だからだろうか。計算による開放時被写界深度は27.7mm。

ノクチルックスM50mmF0.95 ASPH.(ライカM9、絞りF0.95開放・1/707.2秒、ISOオート、AWB)。F0.95と大口径であるが、2009年登場のこともあり、解像、コントラスト、発色とも最良。計算による開放時被写界深度は18.8mm。
◇付記事項◇
やはり、左右640ピクセルの画像では深度を含めてなかなかわかりにくいようです。印刷で画質を比較しているのと同じようなものかも知れません。解像にしても、ある部分をトリミングして比較すればいいのでしょうが、ピント精度、像面の影響などさまざまな要因を考慮すると一部を固定しての最終判断はだしにくいと考えました。今回の撮影では1mの近距離ですが、ズノーとフジノンをさまざまな場面での撮影結果を比較すると、至近の1mではフジノン、∞ではズノーというような印象を持ちました。ただ、やはりM9のデータ量からすると、A3ノビからA2ぐらいに引き伸ばしてみると、深度の問題、アウトフォーカス部でのボケの状態など明確になります。ここに取り上げた1950年代大口径標準では、ズノーには3枚、フジノンには4枚新種ガラスが使われていました。新種ガラスに関してはさまざまな考えがありますが、今回実写した5本の中では、キヤノン50mmF1.4が最も性能的にバランスがいいような気がしますが、あくまでもM9との組合せのなかで、個体差を無視した実写評価なので、参考程度にとどめていただければ幸いです。
最後に不思議なことひと言。撮影時のシャッタースピード絞り優先AEなので、開放F値が明るいほど高速シャッターが切れているのは理解できますが、F1.2のフジノンとキヤノン、F1.4のニッコールキヤノンは、どちらも開放F値が同じですが、まったく同じシャッター速度が切れていることです。F値でなくT値はどうなっているのだろうか?、単焦点だからだろうか?コーティングが単層で透過率に大きな差がなかったのだろうか?など、面白い現象です。感度のISOオートは、明るく高速で切れているので、いずれのカットもISO160であるのですが。