写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ニコンZマウントAF対応「TTArtisan 32mmF2.8 Z」

 中国製の交換レンズやマウントアダプターを販売する焦点工房は、銘匠光学(めいしょうこうがく)の単焦点レンズ「TTArtisan AF32mmF2.8Zマウント」の先行販売モデルを、2022年7月6日(水)に発売すると発表しました。この先行販売モデルは、今後発売される通常モデルと比べてわずかにデザインに違いがあるため、数量限定の直販価格:24,999円 (税込)で販売するというのです。ニコンZ用のTTArtisan レンズは焦点工房から、ニコンZマウントAPS-C判のMFレンズとしてTTArtisan17mmF1.4、35mmF1.4、50mmF1.2の3本セットがわずか3.3万円で2021年の夏に発売されたのは記憶に新しいことですが、今度はフルサイズでAF対応だというのです。ミラーレス一眼機対応のサードパーティ交換レンズとしては、ソニー富士フイルムのボディに対して国内交換レンズメーカーが一部AF対応レンズを販売していましたが、キヤノンニコンに対しては非対応でした。そのなかで、わずかに日本のコシナが電子接点対応のニコンZマウントレンズをマニュアルフォーカスで発売するというので注目していましたが、そこに一気に中国の銘匠光学がニコンZマウントでAF対応レンズとして、発売するというのは驚きのニュースであり、どんなものだろうかと、さっそく取り寄せて使用してみました。

ニコンZ7に取り付けられたTTArtisan AF32mmF2.8Zマウントレンズ≫ フードは伸縮式でまっすぐに引っ張ると7mmでてきますが、非回転式で組付けられていて取り外すことはできません。ちょっとしたからくりですが、取説には書いてないので、購入しても引き出さないでそのまま使う人もいると考えられます。内側には「2.8/32  Φ27 TTArtisan NO.8011002153 DJ-OPTICAL」と刻印されています。フードは外周58.5mmで、レンズ鏡胴前面刻印面より6.5mmの位置に45.5×31.5mmの長方形で窓がケラレがでないような画面ぎりぎりまで開けられいています。レンズ本体のマウント基部面外周が62.5mmなので、もしフィルターを付けるとなると内側のΦ27mmネジにインナーキャップのような感じで装着できます。写真ではフードを引き出していません。

≪レンズとフード外面の関係とレンズキャップ≫ レンズ上面基部には「0.5m-∞ 2.8/32 Z」と刻印されている。レンズ外装、フード、かぶせ式のレンズキャップなど、すべてつや消し黒アルマイトの金属製ですが、それぞれ加工精度は高いと感じました。左:フード収納状態、右:フードを引き出した状態。フードは引き出していなくても効果ありそうです。

≪ボディ側とレンズ側のマウント基部≫ 電気接点は11カ所、ボディ側と同じ数です。そんなのあたりまえだろうと笑われそうですが、過去に使った韓国サムヤンのソニー用35mmF2.8AFはソニーのボディ側10カ所の電気接点に対して、レンズ側に12接点あったのです。これはレンズ側のファームアップに使うようなのでしょうが、その後ファームアップがなされているのかは不明です。TTArtisan32mmF2.8の場合には、マウント面基部の電子接点の対向側にUSB端子が設けられているのでPCとWeb接続してファームウエアアップを行うタイプです。このような端子は中国製のAFマウントアダプターなどに見ることができますが、単独のAFレンズとしては初めて見ました。

■さまざまな場面で撮影してみました。

 本レポートの着眼点はAFの動作ですが、実際の場面でどのように作動するのかがチェックポイントですが、やはり実際に撮ってみなくてはわからないのは現実で、いつものコースをさらっと撮影して、その実力を見てみました。

≪いつもの英国大使館≫  F5.6・1/640秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。いつものように晴天の朝10時15分ごろ、絞りF5.6、通常は基本的に焦点距離35mmで撮影するようにしてますが、この場面では32mmという画角はちょうど良い画角となりました。ピント位置は、スポットAFで画面中央屋根直下のエンブレムに合わせています。

≪画素等倍に拡大してみました≫  4500万画素センサーの画素等倍ですが、通常はこんなに大きくすることはないと考えますが、若干解像が甘いようですが、それはAPOレンズなどと比べたときで、光学性能として実用上は問題なく普通に写る感じです。

≪TTArtisan32mmF2.8のレンズ構成とMTF曲線≫ 6群9枚構成、橙色:異常分散レンズ、桃色:非球面レンズ、青色:高屈折低分散レンズ。ニコンZ fcなどAPS-Cで使うと×1.5で、48mm相当の画角になります。今後、もしキヤノンRF対応としてでれば51.2mm相当画角となるわけです。

≪工事中の英国大使館裏側≫  F9・1/250秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。スナップ的に歩きながら撮りましたが、もともと右上がりの坂道なのでカメラとしてはこれでだいたい水平がでてます。

≪いつものYS-11  F7.1・1/400秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。露出レベルの問題かもしれませんが、何となくシャドーがつぶれる感じがするのは撮影日が雲が多い日だったからでしょうか。

≪いつもの飛行機、C-46輸送機≫  F10・1/400秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。同じ場所でいつも同じ被写体をねらっていると、リベットの質感やペイント盛り具合などで解像感がわかるのです。やはりシャドーはわずかにつぶれ気味に感じます。

≪いつもの航空少年兵の像≫  F2.8・1/1000秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。こちらの像もいつも撮影する被写体ですが、あえて絞り開放で中央の少年の目のあたりにピントを合わせてみました。この像には特別な意図を持って撮影しませんでした。カメラ側の機能の問題でしょうが、実際の人物の場合には撮影距離によって顔認識、瞳認識AFも確実に機能しました。たぶん動物認識もするのでしょう。

≪像の左側の少年の肩と背後左部分を画素等倍に拡大して見ました≫  木の葉の間からこぼれる光が丸く玉のようなボケとして描出されていますが、これは球面収差の過剰な補正によるものと考えられます。木陰でのポートレイト撮影、背景に点光源を配しての人物撮影など、絞り開放で撮ると面白いボケ味の写真が撮れそうです。

≪木のこぶ≫  F4.5・1/80秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。若干暗い背景の影響を受けていますが、私としては0.7EVぐらいマイナス補正したいのですが、露出のバランスを含め問題なく撮れています。

≪竹の皮≫  F5・1/100秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。竹の皮のヒゲの微細な部分がどの程度写るか撮影しましたが、まずまず細かい部分も再現できました。露出に関しては、上のカットと同様に、私としては0.3EVぐらいマイナス補正したいのですが、露出補正しなくてもバランスよく撮れています。

≪落ち葉のテストチャート≫ F2.8・1/500秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。秋に拾い集めた落ち葉をざるの上に置いて、ナチュラルな色とシャープネスを測るテストチャートとしています。絞り開放F2.8の画像ですが、F8ぐらいまで絞り込めばさらに解像感が増すことは言うまでもありません。ただ、このレンズの最短撮影距離は0.5mなのですが、焦点距離相当の0.35mぐらいまで近づいて撮りたいものです。

≪画素等倍に拡大≫ 上の写真のうちエノコログサの部分を画素等倍に拡大してみました。すでに英国大使館エンブレムの部分で述べていますが4500万画素CMOSセンサーという高画素機だとこういうレベルの解像感で普通かなというわけです。写真的に見るとこのような場面で絞り開放F2.8で撮影し、画素等倍にまで拡大は通常ではありえないほどです。

■ミラーレス一眼の交換レンズのこれからは

 ニコンZマウントで税込み価格で24,999円 というのは少なくとも現在のZ交換レンズの中で破格の値段ということになります。なぜこのような価格で作れるのかは別にして、少なくとも現状でのミラーレス一眼では、ニコンキヤノンはAF対応の交換レンズ製造に関するライセンスは他社に供与してきていないと私は解釈しています。国内交換レンズメーカー大手のシグマ、タムロンが製造できないのに対し、一部マスコミでは大人の事情という一言で済ませていますが、このあたりは時間が経過すれば各社が作れるようになる方向で解決するのかどうかは、過去の例から見ると現在は5分5分だと思うのです。やはり権利関係は明確に言及すべきだと思うのです。

 これは一眼レフに限ってみれば、歴史的経緯から一部には海外企業のマウントと共通化させて発展してきた部分などもあり、権利を主張するのにはそれなりの付加価値を高めることが必要なわけで、過去の例としては東京光学機械の開放測光機構、ハネウエル社のAFに関する特許訴訟などが良く知られた部分ですが、今日の成熟したカメラ産業では、技術や規格を事前にどのように押さえ、特許としてどれだけ自社の知的財産として保護できるかにかかってきているかと考えるわけです。特にミラーレス一眼に関しては、レンズ交換のマウント部分を特許として押さえるか、意匠として押さえるかによっても大きく変わってくると思うわけです。他社による製造を認めるか、認めないかはそれぞれの企業の戦略によっても変わるわけですが、キヤノンニコンの認めないに対し、ソニー富士フイルム、OMデジタルソリューションズの認めている辺りは、それぞれの社の考えるところであり、ユーザーは推測することはできてもその範囲を超えることはできません。そんなことを考えつつ、今後のカメラ需要を考えると、かつてのように幅広く交換レンズ製造を他社に任せるのではなく、なるべく自社のシステムでカバーして開発費を含めて収益を確保するという考えは当然成立するわけですが、ユーザーにとっては、さまざまな焦点域、ブランド、価格へのチョイスができるのは楽しみが広がってベストだと思うのですが、もしそうだとするとこれからは国内外を問わずレンズメーカーに対価を求めてライセンス供与する時代がくるかがポイントになります。

 なぜこのようなことをあえて書くのかというと、最近ニコンコシナのMFレンズだけに電子接点付き交換レンズのライセンスを与えたようで、どんな具合かなと考えていた時に、ある業界通の方から最近キヤノンは、韓国のsamyangと中国のvitrox 、yongnuoを訴えたのを知ってるかという話があったことと、ある時期からサムヤンの製品からキヤノンAFマウントが静かに消えたというようなことも聞いていたので、TTArtisan AF32mmF2.8Zはどんなものと、早速取り寄せて使ってみた次第です。結果は、ご覧のとおりですが、フォーカスリングを回せば距離インジケーターがでるし、Exifも撮影データに加えられ、レンズ名も記録されているわけで、特に問題ないようにも思うのですが、ミラーレス一眼のAF は単に合焦のためにレンズが前後に駆動され、Exifが書き込まれるだけではなく、収差補正も含めて信号のやり取りが行われ画像処理されて最終的な画像が生成されるとされていて、今回の結果からはどのように撮影画像に作用したのかわかりませんが、たぶん銘匠光学はニコンからライセンスを受けているとは考えにくいのです。これに関して現地に詳しい人に聞いてみると、中国の深圳地区では光学的にも、機械加工も、電子部品も何でもできるというのです。しかし単に物としてできるということではなく、あるルールの下に製品が作られていくのが、これからのカメラの幅広い健全な普及を考えると大切であり、国内外のサードパーティー交換レンズメーカーはライセンスを受けられるように働きかけるべきであり、カメラメーカーはライセンスを自社に見合う形で与えていくことも必要だと考えるわけです。 (^^♪

 

 

中井駅の柳 「お散歩カメラ」と「通勤カメラ」その2

 久しぶりに西武新宿線中井駅で降りて、写真展巡りのために都営大江戸線六本木駅に向かったのですが、かつて中野坂上の東京工芸大に通っているときに見つけた川端の柳の大木が、なぜか寂しそうに見えて、それでついシャッターを押したのが2007年のことでした。

≪2007年3月9日撮影≫ 西武新宿線中井駅から都営地下鉄大江戸線中井駅に向かって歩くとすぐに妙正寺川が流れ寺斎橋があります。そのたもとに大きな柳の木があるのですが、なぜか川の欄干に両手をそえて寂しそうに川の流れを見ているように感じたのです。右は、橋の上から撮影してみました。

≪2010年6月24日撮影≫ その柳の木が3年後に通りかかったら伐採されていました。まだ伐採されて間もないようで、切り株の周りにはチエーンソーによる大鋸屑が散らばっていました。新宿区役所によると木が枯れたからだそうです。切り口の部分が穴が開いたのが、人間の顔のように見えましたが、かつてのような寂しそうな感じはしませんでした。

≪左:2011(平成23)年4月7日、右:2022(令和4年)年7月6日≫

 1年後には小彼岸桜が植わっていました。脇には小彼岸桜、寄贈・長野県高遠町平成23年4月29日となっているのです。どうしてヤナギが小彼岸桜になってしまったのだろう、なぜ寄贈日付以前に植わっているのだろうなどとも考えましたが、よくよく調べてみると、日付の件は別にして、高遠藩の藩主内藤家は、宿場内藤新宿の現在の新宿御苑一帯に下屋敷があった縁で、新宿区と旧高遠町(現伊那市高遠町)が1986年に友好都市協定を結び今日に至っているということで、高遠城址の小彼岸桜は有名で、それが縁で寄贈されたらしく、新宿区内のあちらこちらに小彼岸桜が植樹されてるようです。

 桜は生育が早いようで、2022年で植栽後11年経ち、ここまで大きくなりましたが、根が張って路面が盛り上がってます。あと10年経ったら、また手に負えなくなりますね。その時はまた伐採して、新たな植栽が必要なのでしょうね。川沿いには柳の木が良く似合うと思っていましたが、その時はまた柳の木が植えられるといいなと思った次第です。

 さて、今回はふとしたことから、1本の柳の木を撮影して、定点観測的な写真を披露しましたが、中井あたりは昔どんなところだったのだろうかと調べたことがありましたが、かつては駅を抜けるといくつかの坂があり、閑静な住宅街であったようです。また妙正寺川には以前はホタルが飛び交い、神田川と落ち合う(合流する)落合あたりは染色業が盛んだったようで、よく見て歩くと川沿いは今でもその名残をとどめています。そして近くには、かつては将軍家の狩猟地で、現在も湧水のあるおとめ山公園があるなど、ゆったりの「お散歩カメラコース」なのでした。こういう写真による経時変化を簡単に検索で、新旧データを組み合わせて使えるのもデジタル時代ならではと思うわけです。 (^^♪

注)本記事は、2011年4月21日のブログに写真を追加して加筆したものです。

キヤノンEOS R3を使ってみました

 キヤノンミラーレス機の最上位モデル「キヤノンEOS R3」が私の手元にやってきました。いつものことですが私の所有ではありません。今回の購入は知人のTさんで、私に存分に使って欲しいというのです。

 EOS R3の発表は2021年の4月14日に開発発表され、同年11月27日に発売が開始されました。ところが半導体不足の影響からか、発売前に購入を申し込んでも、手に入るのは2022年の秋ごろとまでといわれるほど品不足だったのです。Tさんはさすがこれには困惑して、買いたい時が欲しい時として、あれこれ悩んだ末に大手量販店の5年保証付き未使用新古品をオークションで手に入れたのです。価格的には通常購入とさほど変わらなかったとかで、金融流れかわかりませんが世の中の流通の仕組みは不思議です。

 さて、次は交換レンズですがTさんからは「RF24-105mmF4L IS USM」がついてきました。このレンズはすでに私としてはEOS Rの時に使用していますが、R3のボディでどのような写りを示すか楽しみですが、もう少し変化が欲しいなと思っていたところ、EOS Rシリーズユーザーで友人の写真家であるHさんが、カメラ誌「キヤパ」2022年5月号に私が元ニコンの後藤哲郎さんのインタビュー記事『哲郎の部屋』に登場した雑誌を読んだらちょうど特集が『超望遠撮影術』だったので、超望遠の何か良いレンズが欲しくなり「RF100-400mmF5.6-8ISUSM」を購入したというのですが、今回はさっそくそれを貸してくれるというのです。これで、交換レンズも広角から超望遠までそろったわけですが、どのようなテストをしたかその考え方を含め紹介してみましました。

■まずは各部の紹介から

≪今回使用した機材≫ EOS R3ボディとRF24-105mmF4L IS USM、RF100-400mmF5.6-8 IS USMの2本のズームレンズです。ボディ本体はブラックというよりは、かなり黒に近いダークグレーのつや消し塗装が施されたされたエンジニアプラスチック筐体に、手で触れる部分は鹿の子模様のような凹凸のある立体的なラバーで被われていて保持特性を高めています。ボディはバッテリー、SDカード1枚込みで1010.7g、24-105mmフード付きで365g、100-400mmフード付きで346gです。大きいか、小さいか、重く感じるか、軽く感じるかは、体力差とか年齢差により異なります。

≪背面から見ると≫ 左:背面液晶パネルは回転させると隠すことができます。もちろんティルトしてのファインダーとしても使用可能です。右:液晶パネル側にセットして、撮影時の表示画面をセットしました。背景が白くて写りにくいのでレンズキャップをしてあります。左右のボディの掲載寸法が異なるのは、液晶部分の細かい文字が見えるようにとの配慮からです。ファインダー窓左側に赤く光っている点はアイセンサーの光源だと考えられます。それぞれの操作は特に難しくはないですが、メイン電源スイッチは、下からOFF、LOCK、ONとありますが、それぞれを動かしセットするにはかなりの力を要しますが、下部にバッテリー収納の形状だけでなく、簡単に動かないようにとの激しく現場で動き回るプロ向けの設定を感じさせます。

≪バッテリーと記憶メディア 左:バッテリーパックは2700mAhのLP-E19を使用。専用チャージャーによる充・給電ができますが、PD対応の非純正の小型充電器でも条件さえ合えばUSB TypeC⇒USB TypeCのコードを使ってボディ内に電池を入れたまま充電できるので便利です。右:記録メディアはCFexpress(手前)とSDカード(奥)の2スロット。写真では、CFexpressを所有していないので、形状が同じなXQDカードを入れてありますが、当然記録はできません。

≪視線入力AF≫ 左:視線入力をONにすると、上部液晶表示に目のマークが出でます。右:視線入力の原理イラスト(キヤノンHPより)

 キヤノンフィルムカメラの EOS 5(1992年)、EOS 50(1995年)、EOS 3(1998年)の時代から視線入力AFを採用しています。EOS R3の視線入力光学系は基本的にはEOS 3から大きく変わっていませんが、当時は視線用センサーがペンタプリズム上部に配置されていました。EOS R3ではファインダー側から投射した赤外線を角膜で反射させて視線センサーで測定してというのですが、基本的には瞳孔の位置を図るのではないかと思うのです。キャリブレーションでは見る角度を変えて、明るい場所や暗い場所でと変えて行うと精度が上がるということは、瞳孔が明るくなれば小さくなることなどに関係するのではと考えられます。私は「写真工業」1999年6月号で“EOS 3の45点視線入力”と題してレポートしていますが、当時の入力はエィッとばかりに力みましたが、EOS R3では測距点は大幅に広がり、軽い感じで黄色いマルで視線ポイントがEVF内に表示され、シャッターボタンの半押しでAFゾーンに連携するので、かなり気楽に使えました。それにしても、当時EOS 3を使ったというプロ写真家の方々などさまざまな人に視線入力AFに関して聞いてみても無関心な方が多かったなか、「良く合うしこれがAFの将来としてあるべき姿だとして後で気づいても遅いですよ」と、私にサゼッションしてくれた元S社のUさん、冬眠していた多点視線入力AFをデジタルの時代に再度フラッグシップ機でチャレンジしたキヤノンもすごいけど、Uさんの将来技術を見る視線も素晴らしいことだと改めて思うとともに、使ってみて演算処理能力の向上などによりかなりレスポンス良く動作するのには、23年という時代の技術進歩を大いに感じました。

≪マルチアクセサリーシューアダプターAD-E1≫
 防塵・防滴性能を備えた従来のストロボを装着するためのアダプター。EOS R3で新たに追加された複数の接点は左写真でシューの奥に見えます。AD-E1を介して防塵・防滴機能が備わったストロボを装着すると、防塵・防滴性能が機能しますが、マルチアクセサリーシューは電気接点を多くして動画用マイクなどのコネクションに対応させたというところでしょうか。機能が増えれば接点も増えるということでしょう。

 それでは、以下EOS R3ならではの写真をなるべく多く紹介してみます。

■英国大使館正面玄関

≪英国大使館正面玄関≫ RF24-105mmF4L、焦点距離33mm:視線入力AF、絞り優先AE、F5.6・1/640秒、ISO-AUTO100

 このシーンは、私のカメラレポートでは必ず最初に撮影するカットで。焦点距離約35mm、絞りF5.6で、晴天の午前10:15頃に撮影します。最近は各社とも最新のデジタルカメラでは、カメラ本体、レンズとも必要十分な性能を備えていますので、この日のEOS R3では、あいにく晴天ではなくわずかな青空のもとでの撮影となり、2400万画素とRF24-105mmF4Lレンズの組み合わせで、直線性も良く、飛ぶところも、つぶれるところもなく、解像力的にもまったく問題ない描写と考え画素等倍拡大画面は省略しましたが、撮影はひとつのセレモニーとして行いました。

キヤノン初の裏面照射タイプの積層型CMOS

①オールド広角レンズにおける周辺光量の低下:EOS R3はキヤノンとしては初の裏面照射タイプの積層型CMOSですから、従来型のCMOS撮像素子とオールドの対称型広角レンズを組み合わせると周辺光量の低下が目につきましたが、実写ではどの程度に収まるか、私が判定のために基準レンズとして決めている“フォクトレンダー・スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH.(1999)”と“キヤノンS 25mmF3.5(1956)”で実写を試みました。

フォクトレンダー・スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH.≫ 絞り優先AE、F5.6・1/640秒、ISO-AUTO100、三脚使用。このレンズはまさにフィルムカメラ全盛の1999年に、まだ超広角レンズが少ないころにライカスクリューマウント(L39)で登場して、安価なホロゴン15mmとして大ヒットしました。その後Mマウントになり、さらにデジタルのフルサイズに合わせて周辺光量落ちのないⅢ型になりましたが、この最初期の15mmはシャープですがデジタルのフルサイズでは周辺減光が大きくて使えないと考えていたのが、EOS R3の裏面照射型のCMOSが登場して普通に使えるようになったのです。1段弱絞り込んだF5.6で、EOS R3でこれだけ写れば立派なもので、レンズではなく撮像素子の性能チェックにこのレンズをいつも使っています。この程度の周辺減光は個人差にもよりますが、超広角らしくていいということになると思います。マンションの左上部に飛ぶのはC-17輸送機で、2400万画素ですが拡大すれば形状で認識できました。

キヤノンS 25mmF3.5≫ 絞り優先AE、F5.6・1/800秒、ISO-AUTO100、三脚使用。こちらのレンズはさらに時代をさかのぼる1956年の超広角レンズですが、これだけ普通に写れば文句なしです。70年代に多くの作家がRF機で名作を残したレンズですが、F5.6でこれだけ減光の少ない画像を作るキヤノンのデュアルピクセルCMOSは、2400万画素ということもありますが、裏面照射タイプとしてはかなり開口率が高いのではないかと思うのです。各社機種で毎回、同じようにテストしてますので、私のレポートのバックナンバーをさかのぼってみてください。レンズ性能としてはわずかにシャープさに欠けますが、大きく伸ばして、だからどうだというほどではありません。

≪RF24-105mmF4L IS USM≫ 焦点距離24mm、絞り優先AE、F5.6・1/800秒、ISO-AUTO100、三脚使用。さすが、最新の24mmズームです。周辺減光はまったくありません。焦点距離1mm差の25mmと24mmでは画角はずいぶん違いますね。でも本機はズームですから大きさ・重さはかなりのものです。昨今は超ワイド系ズームレンズも多いですが、この程度の小ささなら、クラシックの単焦点もありかなと思う次第です。

左から、ライカM⇒RFマウントアダプターを付けたフォクトレンダー・スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH.、ライカM⇒RFマウントアダプターを付けたキヤノンS 25mmF3.5、RF24-105mmF4L IS USM

 ところで最新EOS R3になぜクラシックレンズかということですが、本機のユーザーはキヤノンとしてはハイエンドアマチュアを考慮しているようですが、時間が経てばもっと安価な機種にもR3と同様な積層型裏面照射CMOS搭載の技術が降りてくるのではないかと思うわけです。とすれば、やはり知っておきたいですね。

■電子シャッター時のローリングシャッター現象の検証

 何を写すかは熟考しましたが、キヤノンとしては初の裏面照射積層型CMOSセンサーなので、まずは簡単にローリングシャッター現象を検証しました。場所はいつもと同じ英国大使館の裏通り、制限速度40Km/hの一般道路、信号まではかなり先、道路の歩道から反対側車線をねらうということで、ある程度の繰り返し再現性が得られると考えました。シャッターは電子シャッターで、1/16000秒を設定しました。

≪ローリングシャッター現象のチェック≫ RF24-105mmF4L、焦点距離35mm、サイレント高速連写H+(30コマ/秒)、路面のタイヤ走行位置にてAFロック、シャッター速度優先AE、F4・1/16000秒、ISO-AUTO5000

 裏面照射タイプの積層型CMOS撮像素子は、電子シャッターモードの時でもローリングシャッター現象が起きにくいとされていますが、車の走行でその具合をわかりやすく見えるようにしました。車の外観は、角形、流線形とさまざまですが、その現象を見やすくできるのは箱型の車ということで、軽のワンボックスをねらいました。ずいぶんこのシーンを何度も撮影してきたために、車両の形状選択を含めかなり手馴れてきました。結果はご覧の通りで、上下で流れている感じは全くありません。撮影結果は、2コマ示していますが、左右ともノートリミングですので、この間隔が30コマ/秒の時差ということになります。いずれにしても過去に、EOS Rのレポートでローリングシャッター現象は試験していますので、そちらをご覧いただければおわかりいただけますが、R3の撮像素子では、まったく無視できる範囲でしかローリング現象は確認できません。

■高速連写

 高速連写は、機械シャッターと電子先幕で最高12コマ/秒、電子シャッターで最高30コマ/秒で可能。AFの動体予測特性とともに調べてみました。

≪動体予測と30コマ/秒①≫ RF100-400mmF5.6-8 IS USMレンズで焦点距離を400mmに設定して、過去にさまざまな場所で撮影してきていますが、焦点距離は変わっても、この踏切にさしかかったときの描写を見ています。3コマの連写を掲載していますが、このずれが30コマ/秒の間隔といえ、3コマ目で目的の位置にきてます。列車の軌道が良いのかわかりませんが、直線性がよく、圧縮感を十分に感じさせる焦点距離400mmです。

≪動体予測AFと30コマ/秒②≫  RF100-400mmF5.6-8 IS USM、焦点距離400mm、視線入力AF、電子シャッター、プログラムAEF9・1/400秒、ISO-AUTO400、AWB。特急列車の通過駅からの撮影ですが、さすが30コマ/秒となるとかなり細かく分割撮影できますので、いつものこの踏切にかかる直前をズバリとらえられました。30コマ/秒は、被写体と目的にもよりますが瞬間をとらえるには必要十分なコマ間隔です。AF追随特性も良く、レンズのヌケもいい感じです。実は4月のダイヤ改正前には、この場所からは特急の行き交うところを押さえられたのですが、今はできなくなりました。本当は前に来る特急と去っていく特急を1カットに収めAFがどのように動作するかを見たかったのです。残念。(西武新宿線

≪米軍C-17輸送機の着陸≫  RF100-400mmF5.6-8 IS USM、焦点距離100mm、視線入力AF-しない、メカシャッター、プログラムAE、F14・1/640秒、ISO-AUTO400、AWB。

≪米軍C-17輸送機≫  RF100-400mmF5.6-8 IS USM、焦点距離400mm、視線入力AF-しない、メカシャッター、プログラムAE、F14・1/400秒、ISO-AUTO200、AWB。

 ちょうど本機を使っているときに5月8~15日に米軍の横田基地で、三沢基地所属のF-16戦闘機が訓練のために飛来するというので、うまく合えばと出かけましたが、残念ながらF-16の編隊は飛んでなく、このC-17輸送機と、プロペラ機とヘリコプターしか飛んでませんでした。このC-17輸送機には、ANCHORAGE、ALASKA AIR GUARDと記されていました。私が時々出向く、滑走路延長上のこの公園にはふだん人はいません。この日はカメラを手にした1人の女性を含め10人ぐらいの人が待機していましたが、皆さん無線機を持って飛行を傍受しているのですね(私は持っていません)。ところで、この飛行機の撮影では視線入力AFはしない(OFF)としました。ここでの撮影は、耳を澄まし、飛来の爆音を聞きつけ、最終的に目で確認して狙いを定めてカメラを構え、さらにカメラを振りながらファインダー視野内にとらえるのですが、その時は短焦点側で機影をキャッチして長焦点側にズームアップしてここぞと思うときにシャッターを押すのですが、レンズを向ける方角は水平に近い部分から真上までとさまざまで、カメラファインダーのアイピース位置に目を固定するのはなかなか難しいです。どうしても瞳孔はファインダー内をあちこちと探し回るので、なかなか視線は定まらないというのが実際でした。もともとすべてにうまくいくかというと、私のなれもありますが、難しいと考えます。さらに飛行機の移動は瞬時ですから、ここぞと思うところでシャッターを切る(正確には切りだす)のですが、H+の高速連写はつくづく便利だというか、お気に入りのカットがとれる確率が高くなるのです(いまさら何を言ってるんだいわれそうですが)。

■RF100-400mmF5.6-8 IS USMの手振れ補正機構

 ここで、今回はRF24-105mmF4L IS USMの標準ズームに加え「RF100-400mmF5.6-8 IS USM」をチョイスしたかということについて記してみます。これは、単にズーム域がちょうど良いということだけではなく、実はそれ以前に「RF600mmF11 IS USM」とテレコンバーター×1.4をそれ以前に使ってレポートしてあります。この時は、手持ちで最大800mmF16になるのですが、まったく手持ちで不足なくヌケと切れの良い写真が撮れたのです。この時、最も感心したのは、まずは画質ですが、それ以上に、樹脂製の沈胴式鏡胴やその加工法、価格に注目したのですが、同じような考えを持ったレンズがでてこないかとひそかに考えていたところ「RF100-400mmF5.6-8 IS USM」がでてきたのでその点でオーナーと考えが一致し購入となったのです。このレンズの構成(キヤノンHPより引用)は上に示す通りですが、外観的にはレンズを振ったときにかなりゆらゆらと手振れ補正光学系が動くのです。これはRF600mmF11 IS USMとRF24-105mmF4L IS USMの場合も同じようでしたが、ボディ側の手振れ補正と合わせて8段分の効果が得られるというのですからすごいのです。この動作をYouTubeにアップしましたが、このブログからは直接YouTubeにはリンクしませんのでアドレス(https://youtu.be/4ghapckjirq)をコピーしてご覧ください。

≪スナップで≫ RF24-105mmF4L、焦点距離88mm、視線入力AF:しない、メカシャッター、プログラムAE、F5.6・1/100秒、ISO-AUTO100。横浜の大桟橋近くの写真撮影の定位置ですが、すでに先客として若い女性3人がスマホでなくしっかりとしたレンズ交換式のカメラで撮影に没頭していたのが印象的です。しかしスナップでなく、記念写真でもなく、マクロ的に被写体をねらっていたので、少し離れた正面から狙ってみました。このカットもH+の連写モードですが、中央の女性が歩き出したのでいくつかのコマからカメラを手にしたのが見えるカットを選びましたが、カメラがこのように見えるのは前後含めてこの1枚でした。数多いカットの中でこれ1枚という感じが撮影できるのは高速連写ならではのことでしょう。(横浜にて)

≪解像とAFチェック≫ RF24-105mmF4L、焦点距離31mm、視線入力AF、プログラムAE、F4.5・1/60秒、ISO-AUTO 60。数枚撮影したうちの1枚。掲示の新聞にピントを合わせてありますが、大きな見出し文字は読めても、小さな本文の文字は読めませんでした。このあたりが2400万画素の限界でしょうか。ここでは比較してないですが、高画素の5000万~6000万画素なら読める感じがしました。なお、左の人物の頭部にピントを合わせたときは、髪の毛の1本ずつの解像が判別できますが、新聞文字の判別はほとんど不可能です。このあたりの差はAF確度に関係して、大きくしなければプリントや画面に差は出ませんが、画像の細かい解析には有効で、高画素タイプに分があります。(新聞博物館にて)

≪新聞印刷輪転機≫ RF24-105mmF4L、焦点距離74mm、プログラムAE、F4.5・1/60秒、ISO-AUTO 800。静止している高速輪転印刷機の油がしみた歯車の質感がいい感じだったので近接して撮影してみました。白いペイントは移設したときの歯車の組み合わせのためのマークでしょう。(新聞博物館にて)

≪いつもの場所で≫  RF24-105mmF4L、焦点距離35mm、プログラムAE、F10・1/400秒、ISO-AUTO 100。晴天の午前中、いつも機種を変えてこの場所で撮影すると露出レベルのとり方とか、機種固有の感度とか、プログラムライン設定とかさまざまなものが見えてきます。EOS R3の場合にはきわめて標準的で背景の針葉樹の緑もつぶれることなく描出されています。(航空公園駅前にて)

≪いつもの飛行機、C-46輸送機≫  RF24-105mmF4L、焦点距離31mm、プログラムAE、F10・1/320秒、ISO-AUTO 100。いつもの飛行機ですが、同じような天候下で、同じ角度から毎回撮影していると、拡大して見ると塗装の光沢感、リベットの微細な部分の拡大などから、それぞれのカメラとレンズの描写特性がわかります。いずれにしても画素数でない部分でカメラの画質は決まるということを再認識しました。さすがの描写です。最近身近に飛行機に詳しい若者が現れたので機種名が判明するようになりましました。(所沢航空記念公園にて)

≪黄色のバラ≫  RF24-105mmF4L、焦点距離105mm、プログラムAE、F7.1・1/320秒、ISO-AUTO 100。もう少し望遠かなとも思いましたが、この距離がぎりぎりの近接でした。深みのある黄色で、色トビもなくきれいに撮影できました。背景の緑のボケ具合も自然です。大きく伸ばしたいカットです。(所沢航空記念公園にて)

≪視線入力、アザミ≫ RF24-105mmF4L、焦点距離105mm:視線入力AF、絞り優先AE、F5.6・1/250秒、ISO-AUTO100。前後にねらいどころのある、このような静的な被写体にも視線入力は有効でした。やはり使い分けは必要ですね。前後のボケ具合は縦の線状の流れがうるさく感じますが、これは被写体による影が大でしょう。(東村山にて)

≪モニュメント≫  RF24-105mmF4L、焦点距離27mm、プログラムAEF9・1/320秒、ISO-AUTO 100。広角側の描写を見てみました。中心のモニュメントの右下に黒く見えるのはカラスでしょうか、それともオオタカでしょうか、拡大しても流れているために確認できませんが、1/320秒では止まらないのですね。(所沢航空記念公園にて)

≪フルートを吹く人≫  RF24-105mmF4L、焦点距離105mm、プログラムAE、F4.5・1/125秒、ISO-AUTO 160。この日の公園では、少し離れたところで2人がフルートの練習をしていました。これだけの輝度差のある場面で程よい感じに露出されるのも評価測光の成果といえるでしょうが、一眼レフ時代の測光と、撮像板による測光では名称は同じ評価測光でも、顔認識などの要素も加味された384分割の異なった演算処理が行われているようです。(所沢航空記念公園にて)

■常用でISO感度102400に設定可能

 EOS R3のISO感度設定範囲は、常用でISO 100~102400が可能とされています。さらに拡張ISO感度に設定すればISO 50、ISO 204800相当という低感度と高感度も得られます。そこで常用感度範囲の最も超高感度のISO 102400に設定して、いつもの新宿歌舞伎町のゴジラを撮影してみました。

≪新宿ゴジラ通り≫ RF24-105mmF4L、焦点距離35mm、プログラムAE、F5.6・1/8000秒、-1EV補正、ISO 65535。プログラムAEISO感度を102400に設定して撮影したのですが、何かリミッターが働いたのか、-1EVの補正をかけたのが感度側に働いたのかわかりませんがISO 65535となり、こんな感じに写りました。右上の長い電飾看板が白く抜けていますが、上に向けて人物の顔を避けた撮影ですので、撮影アングルを少し下に向ければブルーにでていますが、いつもだともう少し遅い時間帯の空が暗くなってからの撮影であることとなどからこのようになったと考えますが、この左右640ピクセルの画像では特にそん色はありません。

ゴジラ部分を画素等倍に拡大、ISO 65535≫ 初夏の日没は遅く、撮影時間は夜7時でも夜というより、夕暮れという感じでした。もちろんあと1時間後ぐらいに撮影すれば良いのですが、すでに2時間待ち、次の予定もあるのでこのあたりの時間で手を打ったわけです。とはいっても、ISO感度 65535という数値はあまりにも異常です。試していませんが、例えば「RF600mmF11 IS USM」に2倍のテレコンバーターを付けて、手振れ補正をフルに働かせて、手持ちでコンサートや演劇の薄暗い舞台を撮ったらどんな値になるのだろうかと思うのですが、その場合でもISO 65535やISO 102400にはならないと思うのです。ISO 65535ではノイズの発生や処理されたことによりソフトな描写の印象を受けますが、画素等倍近くまで拡大することはないはずで、たぶん写真にブレなく適正露出でふつうに写るのではないかと思うのです。デジタル時代のミラーレス、さらには精密機械、光学機器としての技術進歩を知らされるわけです。

 これでだいたい私ができる範囲のテストレポートなのですが、やはりこのままでは「EOS R3」の本来の実力をチェックできていないのです。それというのは、EOS R3の最大の特徴は、視線入力ではなく、裏面照射式積層型のCMOSイメージャーであることなのです。この方式を使うことにより電子シャッターで30コマ/秒、機械式シャッター、電子先幕シャッターで12コマ/秒というEOS史上今までにない高速連写が行えるのが特長で、さらに電子シャッターモードでは読み込み速度が早いので、いわゆるローリングシャッター現象の発生が抑えられるというメリットがあるのです。同じような仕様を持つものとしては「ソニーα1」、「ニコンZ9」があるのですが、過去にソニーα1はレポート済みですので、そちらも合わせてご覧いただければ幸いですが、ここで友人カメラマンに「EOS R3」を託すことにしたのです。

■EOS R3でサッカーを激写

 お願いした写真家さんはスポーツ分野でフリーランスで活躍する“梁川剛さん”です。梁川さんにはソニーα1の時にもお世話になりましたが、何よりも写真好きで、新しいカメラ技術にも前向きにとらえて積極的に取り組んでくれることです。しかもフリーランスですからどのような機材を使うかも自由なわけです。今回は、タイミングとしてサッカーの4試合を撮影してもらいましたが、一部には比較のためにEOS R5を併用してくれるというおまけつきです。レンズは梁川さんの使い慣れている「EF100~400mmF4.5-5.6L IS II USM」にEF-RFマウントアダプターを使用という条件です。

天皇杯横浜マリノス vs 鈴鹿ポイントゲッターズ、6月1日、横浜三ッ沢球技場

 EOS R3を渡した翌日の第1戦です。初日からナイター戦でしたが、慣らし操作といったところでしょうか、梁川さんからは「すばらしい、撮れすぎちゃってー困るのよー♫」とその日の夜に第1報が入りました。

≪実践の初日で・1≫ 焦点距離148mm、電子シャッターモード、F5.6・1/1020秒、ISO 6400。連写のカットの中からですが、それらしいカットを私が選びました。

≪実践の初日で・2≫ 焦点距離278mm、電子シャッターモード、F5.6・1/1000秒、ISO 6400。こちらは梁川さんセレクトの1枚。

●日本代表 vs パラグアイ戦、6月2日、札幌ドーム

≪決まりのカット≫  焦点距離300mm、電子シャッターモード、F5.6・1/800秒、ISO 6400。やはり試合はナイター戦でしたが、競技場の照明光の位置によりその描写は大きく変わるだろうと考えられます。試合によってはカメラマンは人数的に制限されたり、動き回ることも許されないという撮影環境のようです。数カットいただいた中で私的にはこれかなと思って選びました。

ヴィアティン三重 vs 鈴鹿ポイントゲッターズ、6月5日、アサスタ東員スタジアム

 4試合を撮影してもらった中で唯一の日中での撮影でしたが、少し余裕が出てきたのでしょうか、さまざまな場面でAF性能を試してくれました。さらにEOS R5との比較を行ってくれました。

≪ネットの向こうに≫ 焦点距離263mm、電子シャッターモード、F5.6・1/2000秒、ISO 1250。通常このような場面では手前にあるネットにピントが合ってしまうそうですが、奥の人物にAFがうまく作動してくれたというのです。

≪手前に障害物があっても≫ 焦点距離400mm、電子シャッターモード、F5.6・1/2000秒、ISO 1600。スポット的なAFの使い方と思いますが、手前にかなりの割合で他の選手がいましたが、中央奥の選手のキックする瞬間をねらったそうで、人物をしっかりとAFが追いかけているのがわかります。

≪キックの瞬間、EOS R3≫  焦点距離278mm、電子シャッターモード、F5.6・1/1600秒、ISO 1250。キヤノンとしては初の裏面照射タイプの積層型CMOS撮像素子ですから、ローリングシャッター現象が抑えられているのですが、従来タイプのCMOSとどのように異なるかと比較のカットです。キックした後の加速度がついた状態での球の形を見てください。

 ≪キックの瞬間、EOS R5≫ 焦点距離170mm、電子シャッターモード、F5・1/1600秒、ISO 800。EOS R5の従来型ではご覧のようにラグビーボールのようになりました。もちろんこの形状は相対的な球の速度などにより異なるわけで、時にはさまざまな形状を示すことになります。

●日本代表vsブラジル戦、6月7日、国立競技場

≪H+30コマ/秒の連写≫ 焦点距離360mm、電子シャッターモード、F5.6・1/250秒、ISO 4000。試合はナイターでしたが、30コマ/秒の動きを追ってみました。もっと手前のコマから撮影されていますが、球の動きを見てもらうためにヘディングする直前から、ヘディングした瞬間、さらに球がフレームアウトする直前までの9コマをピックアップしてみました。本来なら、もっと大きな画像で見てもらいたいのですが、球の動きを追いかけて見やすくするためには、掲載時の寸法からこのようなサイズとなりました。いずれにしても30コマ/秒で、約0.3秒間で起きたこのような動きを9コマでとらえられるわけですから、すごい時代になりました。

≪決まりのカットは?≫ さて、上の9コマから何か1カットを大きく掲載と考えるとなかなか難しい判断です。球が頭にあたった瞬間か、跳ね返したときか、さらにその先かということでしたが、結局私が選んだのは、飛んでくる球にめがけて向かって行くときの顔の表情が良かったので最初のコマを選びました。雑誌や新聞などに掲載の時には実際はトリミングして、より主題を明確にするのですが、ここではあえてのノートリミングの画像を載せています。EOS R3の2400万画素というデータ量はトリミングしても特に問題ないことは言うまでもありません。

≪EOS R3とEOS R5を手にした梁川剛さん≫ 右は、R3が私の所に来た時にアクセサリーシューにはマルチアクセサリーシューアダプターAD-E1がついていたのですが、邪魔だからと外して梁川さんに渡したのですが、雨の中の撮影で多くのカメラマン仲間からそのままでは危ないと指摘され、急遽ガムテープを貼って防水性を持たせたという写真です。大変お世話になりました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

■ミラーレス一眼に次の時代が見えてきた

 発売から半年も経ってのレポートとなりましたが、やはりEOS R3の魅力は尽きるところは、視線入力ではなく、電子シャッター時の30コマ/秒のコマ速度であり、ローリングシャッター現象が抑えられたということになるわけです。フラッグシップ機としては、各社とも裏面照射タイプの積層型CMOS撮像素子を採用しローリングシャッター現象を抑制し、キヤノンEOS R3の2400万画素に対し、ソニーα1が5000万画素で電子シャッター時30コマ/秒、ニコンZ9が4500万画素で20コマ/秒(30コマ/秒・C30)となっています。このうち特徴的なのは、ニコンZ9は機械式シャッターをなくしてしまったことが最も異なること点で、電子シャッターと光源のフリッカーとの関係はどうなのかとか、バッテリーグリップタイプをキヤノンニコンが採用していますが、ニコンの1,340gに対し、キヤノンは1,015gと300gもなぜ軽いのか、とかいろいろ疑問はわいてきます。基本的には撮影の画素数を落とせばコマ速度は上がるわけで、このあたりはそれぞれ使う人の目的とか好みなのかということになるわけです。

 ところでキヤノンは、2022年5月24日に、APS-C判で画素数は3250万画素、ボディとレンズ側の組み合わせで最大8段の手振れ補正と、機械と電子先幕シャッターでAF・AE対応で最高速度1/8000秒、約15コマ/秒連写、電子シャッター使用時は最高速度1/16000秒、最高約30コマ/秒の高速連写にも対応させた「EOS R7」を6月23日に発売すると発表したのです。しかもマウントはRFマウントだというわけで、従来のフルサイズ用RFマウントレンズを使えば1.6倍相当の焦点距離画角が得られるということから、撮影目的を野鳥撮影や飛行機、列車などかなり動きのあるものから、一般撮影までカバーしてしまうことになるのです。デジタルにおいては、撮像面積よりもまずは画素数が大きく効いてくることは知られているわけですが、撮像素子そのものは既存のCMOSであっても、撮像面積が小さければそれだけスキャン時間が短く、秒間のコマ速度も速くなるのではないかとも考えるのです。フルサイズのサブ機としても使えるようなスペックであるために、単なる小型機という既存の枠を超えたキヤノンの新たなミラーレス一眼への展開が注目されるところです。

 今回のレポート作成にあたっては、Tさん、Hさん、梁川さんと多くの方のご支援により行えたことを深く感謝いたします。 (^_-)-☆

 

 

コシナ・フォクトレンダーノクトン50mmF1 Aspherical VMを使ってみました

 フォクトレンダーコシナが、研削非球面レンズを採用した『ノクトン50mmF1 Aspherical VM』を1月に発売しました。このレンズの最大の特徴は、F1と大口径なことですが、非球面レンズの加工に研削方式を採用したことで高融点で高屈折な硝材が使えたことです。この研削非球面レンズを採用することにより、高度な収差補正が可能となり、レンズ構成も単純化でき大口径ながら小型化できるというのです。

 現在、非球面レンズの加工法は、①成型によるモールド法、②複合非球面、③研削法とあるわけで、モールド法の素材はガラスとプラスチックがあり、いずれも素材としては低融点であることが望まれます。複合非球面はガラスと樹脂の組み合わせで、樹脂を硬化させるのに熱と紫外線照射による方法がありますが、経時による問題があるとされています。研削非球面は1枚ずつの研磨によるために生産効率は低く、製品コストも高くなるとされています。他社の最新交換レンズでの研削非球面の採用を見ると、キヤノンでは「RF50mm F1.2 L USM」、「RF85mm F1.2 L USM」、ニコンでは「ニッコールZ 58mm F0.95 S Noct」などがあり、いずれも大口径で標準、準望遠域に採用されていて、高価でありますが、その中でも同じ標準域のキヤノンが約30万円、ニッコールの約110万円に対してノクトンの約22万円は安価だといえるのでしょう。

 さて、いろいろと講釈を述べるのはここまでにして、いわゆる大口径レンズの描写はどうなのだろうかと改めて考えてみようと、2010年に発売された「ノクトン50mmF1.1」と比較しながらいつもと同じように使っていたのですが、ノクトン50mmF1を使い始めたら、ライカカメラ社が新型の「M11」を発売したのです。そもそも『コシナフォクトレンダーノクトン50mmF1 Aspherical VM』は、コシナの『VMマウント』とは、ライカMマウントと同等なため、新型ライカがでたら当然最新モデルでどうだろうかと考えるわけでして、さっそく試してみました。

■デジタル時代の大口径レンズ

 大口径レンズはフィルムカメラの時代は、感度でカバーできない部分をレンズの明るさでかせごうという、暗所用のハイスピードレンズだったのです。ところがデジタルといえば超高感度も自在でISO数万という機種も数多くあり、ここで使用する最新のライカM11ではISO50000の設定が可能ですから、いまさら大口径である必要はないのです。ところが、デジタルの時代になっても、ライカ用に、さらにはミラーレス一眼用に大口径レンズが各社から発売されています。これは、デジタルになって高速シャッターが切れるようになったことで、大口径ならではの深度の浅い画像が撮影できることがメリットだと思うのですが、大きさ・重さもそれぞれであり、価格もピンキリで100万円を超えるものから10万円を切るものまでとバリエーションも豊富です。

 コシナフォクトレンダーは、もともと大口径レンズの実績が多く、最近はM4/3規格に、やはり研削非球面レンズを使った「スーパーノクトン29mmF0.8アスフェリカル」を2020年11月に発売するなど大口径レンズに意欲的です。今回は、旧タイプの50mmF1.1(2009年)も横において、使ってみました。

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≪左:ライカM11にフォクトレンダーノクトン50mmF1 Aspherical 、右:ライカM9フォクトレンダーノクトン50mmF1.1を装着≫ どちらも専用フードを付けてあります。F1は、バヨネット式で取り外して裏返して収納可能。F1.1はスクリュー式で裏返すことはできません。フィルター径は、F1が62mmφ、F1.1が58mmφです。

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≪左:オリジナルノクトン50mmF1.5、中:ノクトン50mmF1、右:ノクトン50mmF1.1≫ 参考までに置いたオリジナルノクトンは1950年に発売されたフォクトレンダープロミネント用です。

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コシナフォクトレンダー50mmF1と50mmF1.1底面比較≫ F0.1明るいと口径は当然のこととして大きくなります。F1.1のレンズ先端からマウント基準面まで57mm、F1は54mmで口径は大きくても全長は短くなっています。これは写真を見れば、後玉が飛び出していることから納得できます。左にはF1のレンズ構成図を載せました。最後玉と最前玉には非球面レンズが使われていて、前部の非球面は研削非球面レンズだというわけです。このような、レンズ構成図の配置は本来ならあってはならないのですが、実写真との比較でこのように置いてみました。

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≪それそれの絞りの形を見てみました≫ 左から、オリジナルノクトン、50mmF1.1、50mmF1です。いずれもF5.6に設定してますが、F1はかなりの円形絞りであることがわかります。

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≪ライカMマウントはユニバーサルマウント≫ イカMマウントはミラーレス機の登場で、一気にユニバーサルマウントとしての価値を高めました。これはマウントアダプターを介することにより単に古いライカレンズが使えるということでなく、各社のボディでさまざまなレンズを楽しめるのです。このミラーレス一眼用のマウントアダプターとしては2008年に発売されたパナソニックの「ルミックスG1」では、ライカMとライカRマウント用の変換アダプターが純正のアクセサリーとして発売されたのですから、ミラーレス機にライカレンズを使うというのは、正しい使い方であたりまえのことなのです。写真の左側は、ソニーα7RⅣにAFを可能とするTECHARTのマウントアダプターを付けてノクトン50mmF1を、右はTTArtisanのマウントアダプターを介してニコンZ7にノクトン50mmF1.1を取り付けました。このようなマウントアダプターは各種ミラーレス機用に販売されているわけですから、「ライカMマウントはユニバーサルマウント」というわけです。

 ところで、レンズ構成図を載せた部分の写真を見てお分かりのように新50mmF1の後部は旧50mmF1.1に比べてバックフォーカスが短いのです。これはライカMマウント用レンズだけど、明らかにミラーレス一眼を考慮した設計だと考えました。2020年にコシナソニーEマウントのアポ・ランター50mmF2を発売し、その後Mマウントのアポ・ランター50mmF2を発売しましたが、それぞれのレンズが各マウントに適切化された設計がなされたというのです。実際Mマウントのアポランター50mmF2をソニーα7RⅣに付けて比較すると周辺がかなり流れたのです。これはバックフォーカスとフランジバックの関係から、ミラーレス用に開発されたレンズをライカMマウント用に転用するにはそれなりの修正設計を必要としたということで、ソニー用の光学系とライカM用の光学系がそれぞれ設計されたと考えるのです。新50mmF1では、最初からミラーレス一眼用にも流用できるように設計して、バックフォーカスを短くして、ライカM用のレンズを設計したと私は考えるのです。

 すでにコシナニコンからZマウントのライセンスを受けて、APS-C、フルサイズの交換レンズの発売を予告していますが、ニコンZマウントの『ノクトン50mmF1 Aspherical 』がでてくるかも知れませんというわけです。特に『ニッコールZ58mm F0.95 S ノクト』は、マニュアルフォーカスなので大口径レンズとしてスペック的には近似しているので発売されれば注目を浴びるでしょう。

■さまざまな場所でさまざまなカメラで撮影してみました

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≪いつもの英国大使館:ライカM11≫ 晴天、午前10時、絞りF5.6、中央屋根下のエンブレムにピントを合わせるを決まりにして定点観測的に撮影してます。F5.6・1/527秒、ISO-AUTO 64、AWB、三脚使用。正確なピント合わせを行いたいことから当初は「フォクトレンダーVM-Eクローズフォーカスアダプター」を介して同じ6000万画素のソニーα7RⅣで撮影していましたが、途中からライカM11がきましたので、コントラストや色づくりの違いはあるものの、エンブレム部分を拡大すると解像、階調などに大きな違いはありません。したがって、エンブレムの画素等倍画像は省略しました。

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≪ガスミュージアムライカM9 ライカM9:F5.6・1/2000秒、ISO-AUTO 160、-0.7EV、AWB、三脚使用。ライカの色づくりは少なくともCCDのM9とCMOSのM11でも似ているのです。そこでソニーα7RⅣと同じ被写体を撮影して比べてみました。後で気づきましたが、マイナス補正がかかっていました。(小平にて)

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≪ガスミュージアムソニーα7RⅣ≫ ソニーα7RⅣ:F5.6・1/1250秒、ISO-AUTO 100、AWB、三脚使用。ソニーのα7Rは、1型ではかなりマゼンタ系が強い発色でしたが、2型からこのような発色になりました。どちらが良いかとか言うことではなく、露出レベルや好みによっても変わります。レンズ的に見ますと、これもまた難しく、露出レベル、画像を展開するソフトウェアやモニターによっても変わりますので、この画面からはα7RⅣの左右端の青空の部分に周辺減光をわずかに感じます。そこで、M9のトーンカーブをいじり空を同じような明るさにするとソニーα7RⅣの減光に似たようになり、M11で同じF5.6で撮影した英国大使館の空もま似たような描写ですからレンズに依存すると考えて問題ないでしょう。解像度的には1850万画素のM9と6000万画素のM11では当然違います。

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≪降雪の武甲山三菱マテリアル:ライカM11 F5.6・1/320秒、ISO-AUTO 80、AWB、手持ち撮影。無限遠の景色ですから、ヘリコイドを∞位置にセットして距離計の二重像合致もぴったりでした。最近は、距離計連動機の場合には自分でピント位置調整をする中国製のライカMマウント大口径レンズを見受けますが、このあたりはさすがコシナです。画質的には、左右640ピクセルではわかりにくいですが、石灰岩採掘のために削られていく作業用の横筋が良くわかり、手前の三菱マテリアルの工場も細かく描写されています。(秩父にて)

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≪水鏡: ニコンZ7≫ F1・1/8000秒、ISO-AUTO 80、AWB、手持ち撮影。池の端に生える冬枯れた葦の茎にピントを合わせました。水面に写る葦と背後の木々の枝も微妙ですが、撮影距離からすると背後の木々の枝が大きくボケているのがF1という大口径ならではの描写です。拡大すると葦の茎は細かく解像してます。このように天気の良い場所でも開放のF1で撮れるようになったのはフィルムカメラ時代のライカでは考えられないことでした。ニコンZ7でのEVFによるピント合わせは、拡大しないでも確認できるほど見やすいでした。(東村山北山公園にて)

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≪葦: ニコンZ7≫ F1・1/8000秒、ISO-AUTO 64、AWB、手持ち撮影。葦の枯れた穂の部分を1ポイントねらってみました。計算によると許容錯乱円を0.026mmとすると撮影距離1mで前後の合成被写界深度は19.8mmとなりますが、それだけピントの合う範囲が狭いということになります。(北山公園にて)

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≪木造3階建の鰻屋さん:ソニーα7RⅣ(AF)≫ F1・1/4000秒、ISO-AUTO 100。創業が1807年という老舗のお店の前にはいつもお客さんが待っているので、人物を避けて木造建築の2階と3階を撮影。TECHARTのマウントアダプターを付けてのAF撮影だからすこぶる快適でした。(川越にて)

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≪柳沢保正さん:ライカM11≫ F1・1/320秒、ISO-AUTO 250、AWB、手持ち撮影。写真家・種清豊さんのベルリンの写真展でお会いした、デジカメスナップショットの名手柳沢さんをパチリ。横640ピクセルではわかりませんが、この手の高度に収差補正された大口径レンズでは前後に位置する細かい線などでは色収差が発生することがたまにあるので要注意です。(銀座キヤノンギャラリーにて)

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≪アンティークな椅子:ライカM9 F1・1/360秒、ISO-AUTO 160、-0.7EV、AWB。ノクトン50mmF1は、絞り開放でも解像度が高いですが、おおむね大口径レンズは光沢感のある部分の方がシャープに見えます。時を経た木部の光沢に対し、赤いビロード地の立毛の部分が大口径ならではの柔らかなボケと相まってそのコントラストが良い感じです。(ガスミュージアムにて)

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≪アンティークなガスストーブ:ライカM9 F1・1/360秒、ISO-AUTO 160、-0.7EV、AWB。椅子の近くにあったガスストーブだが、なぜか露出は同じでした。鉄製の黒光りする上部は、反射もあり立体感ある描写となっています。(ガスミュージアムにて)

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≪ダイヤモンドホテルの紋章:ソニーα7RⅣ≫ F1・1/640秒、ISO-AUTO 100。あえて光沢感のある金属の紋章と柵を正面から狙い、絞り開放で背後のボケを見てみました。ボケ具合はムラなく均等な感じが好印象を持ちました。(千代田区にて)

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≪お参りの麻縄:ソニーα7RⅣ(AF)≫ F1・1/8000秒、ISO-AUTO 100。F1開放でどれだけのシャープさをもつか試してみましたが、あまり現実的なシーンではありません。これならば、望遠系のレンズを使い麻縄の房をしっかりと描写させ、背後のボケを得たほうが良いわけですが、50mmF1レンズの1本勝負としては、本来ならF2程度に絞る方が良いのでしょう。何でもかんでも絞り開放で撮ろうとした弊害ですね (^_-)-☆。(川越にて)

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≪布袋様:ソニーα7RⅣ(AF)≫ F1・1/500秒、ISO-AUTO 100。瞳AFが作動しましたのでシャッターを切りました。一般的に布袋様は玄関に置くのですが、お金を胸に貼付けて商店の入り口に置いてありますので、お金が、入ってくるようにとのことでしょうね。いつも撮ってしまいます。(川越にて)

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≪ほうずきの実:ライカM11≫ F1・1/1500秒、-1.7EV、ISO-AUTO 64、AWB、手持ち撮影。夕暮れの新宿を歩いていたら、ほうずきの実が風に飛ばされて階段の脇でころころと動き回っていましたので、拾い上げて西日の当たるツツジの植栽の上に置いて撮影してみました。-1.7の露出補正をかけていい感じに仕上がりました。拡大するとほうずきの質感が良い感じで描出されています。近接時の深度の浅さと前側後ろ側のボケ具合がわかります。(新宿高層ビル街にて)

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≪LEDイルミネーション:ソニーα7RⅣ≫ F1・1/30秒、ISO-AUTO 200。このカットをすばらしいと思うかどうかは好みの問題ですが、昨今の傾向としては、さまざまな形のボケ具合を楽しむ傾向が強いのです。この場面ではピントを外した部分ではコマ収差が満開といったところで、大きく伸ばすと中心から周辺に拡散していくその変化を楽しめます。これは標準大口径レンズならではの妙味であって、私の実写経験からしても100万円を超えるものでも発生するのです。(恵比寿ガーデンプレイスにて)

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≪口径食を見てみました:ソニーα7RⅣ≫ F1・1/200秒、ISO-AUTO 100。特に暴れているわけではなく、中央の真円から左右・対角方向にレモン形に移行していくのもこの種のレンズのつねです。(新宿にて)

■ノクトン50mmF1 Aspherical を3種のボディで比較検討した結果は

 大雑把に言ってしまうとこの種の大口径レンズは、絞り開放ではふわっとした描写で、絞ると普通のレンズになるというのと、絞り開放からピシッとした写真が撮れるレンズに2分されると思うのです。その点においては『コシナフォクトレンダーノクトン50mmF1 Aspherical VM』は後者のレンズに属するといえるでしょう。今回の撮影は一部を除き、ほとんどが絞り開放F1で撮影しました。本来の撮影では被写体によってはある程度絞り込んでもいいのですが、作例ではひたすら絞り開放で通しました。

 今回のレポートでは、写真仲間のTさんからタイミングよく「ライカM11」が持ち込まれたことにより、ライカMマウントはユニバーサルマウントとして考えてよいのかということをチェックポイントに加えたために、ボディをライカM11、ライカM9ソニーα7RⅣ、ニコンZ7の4機種を結果として使用しました。これは、同じ6000万画素の裏面照射型CMOSで、ノクトン50mmF1 を使ったときにソニーα7RⅣとは相違はあるのかということと、バックフォーカスが短くなったことからミラーレス機として画素数はわずかに少ないですがニコンZ7を加えてどちらが描写特性がいいのかということも調べました。このためには、被写体を同一にして複数のボディとレンズの組み合わせでチェックしましたが、各機種のコンディションなどがあり、明確には断定できませんがノクトン50mmF1はミラーレス機を視野に入れて設計されたのではとの結論に至りました。

 これは交換レンズメーカーとしては当然のことで、フルサイズのマウント径としては各社マウント径の中で最も寸法の小さいライカM(43.9mm)に合わせながらも、ミラーレス機の特性に近づけて光学系全体を撮像面側に約3mm寄せたと考えました。

 最近、ミラーレス機は各社ともフラッグシップ機は高価で機能も上がり、私が性能を検討するにはそろそろ限界かなと思っていた時に、写真仲間のMさんから「ノクトン50mmF1」が持ち込まれ、さらにそのテスト中にTさんから「ライカM11」が持ち込まれて、すべて実写はやり直したのです。それでもどちらも発売されたばかりの機材を長期にわたり貸し与えてくれたわけですから感謝の気持ちでいっぱいです。(^_-)-☆

 

以下の京都MJのページで、同じ記事の作例写真を画素等倍にして見られます。

http://www.mediajoy.com/mjc/ichikawa_test/ichikawa_part53_1.html

ライカM11を使ってみました ver.2 Final

「ライカM11」の記事は、京都MJのサーバーに移行して、作例写真を画素等倍にして見えるようにしています。

http://www.mediajoy.com/mjc/ichikawa/ichikawa_part52_1.html

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 2022年1月14日に発表されたライカM11は、6000万画素と高画素機で、価格は118万8千円。1月21日に発売されました。デジタルのレンジファインダーイカは、2006年発売の①ライカM8(CCD、APS-H、1030万画素)からで、②M9(CCD、フルサイズ、1850万画素)、③M(Typ240、CMOS、フルサイズ、2400万画素)、④M10(CMOS、フルサイズ、2400万画素)、④'M10-RCMOS、フルサイズ、4000万画素)、⑤M11(CMOS、フルサイズ、6000万画素)で5代目となり、フルサイズ化、CMOS化、高画素化などとスペックアップさせてきましたが、M11ではどのような変化を見せたのでしょう。M11の特徴は、64GBのメモリーを内蔵、ブラックボディはトップカバーをアルミニュームとしたことにより、M10より20%軽く、フィルムカメラのM6ぐらいの重量であるなどがあげられています。ライカカメラ社自身がミラーレス機を発売しているなかで、レンジファインダー式のカメラとして、最新のミラーレス機とどのように折り合いをつけたのかなど、大変興味がわく部分です。そんな視点をもって、ライカM11をレポートしてみました。

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≪外箱と内部梱包材≫ 外箱はかつてのような引き出しのついた箱から普通になりました。中の緩衝梱包材は黒いウレタンはスポンジが使われていますが、これは現在の日本のカメラが段ボールなどで構成しているのに対して最も異なる部分です。右上の白い紙にはiPhoneiPadの製品に関しての動作の注意書きです。

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≪取扱説明書≫ 中央:箱に同梱されていたのはクイックスタートガイドだけでした。左:ダウンロードして自分で出力したPDF版、右:請求したら航空便で送ってきた取扱説明書。発売までに間に合わなかったのでしょうか?。ドイツからきたのが見やすくわかりやすかったです。解説文は日本語ですが、挿絵の部分はすべて英語です。

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≪ライカM11と6ビットコード付きの35mm、50mm交換レンズ≫ 今回ここで使うレンズは、ライカM11の機能を十分に引き出すためにクラシックや他社製品でなく、あえて6ビットコード付きのズマリット50mmF2.4とズマリット35mmF2.5を用意しました。もちろんクラシックのお気に入りや、サードパーティー製のレンズも使ってみます。

■ライカM11の各部

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≪操作する感じでボディを斜め上から見ると≫ 左から、①ISO感度ダイヤル(ISO64・200・400・800・1600・3200・6400とマニュアルMでISO64~50000、オートAのポジションが刻まれています。写真はオート(A)にセット。設定はダイヤルを持ち上げて行えます、②ホットシュー右脇はシャッター速度ダイヤルで、絞り優先オートの(A)ポジションにセットしてあります。シンクロ同調は1/180秒。その右は③電源スイッチとシャッターボタン(写真はOFFの状態)。右上④はファンクションボタン(初期設定では押し込むことによりライブビューの時に拡大表示される)、右肩⑤サムホイール(再生画面の表示を操作できます)、ボケていますが、背面右⑥センターボタンとセレクターボタン

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≪バッテリーと記録メディアのセット≫ 底蓋は、フィルムカメラ時代からの取り外し式ではなくなり、左写真の白いレバーを回転させるとバッテリーがポンと飛び出しますが、このままでは取り出せないのです。もう1段軽く押すと取り外しできるセーフティー機構となっていますが、1度わかれば簡単ですが、知らないとからくり箱のようで苦戦します。右写真はバッテリーを取り外した状態ですが、バッテリーの頭部がボディ底面の構成パーツになっているのは新しい発想です。この部分にマークシールでも貼れば複数のバッテリーの使い分けも便利かもしれません。SDカードは、バッテリーを取り外した状態での押し込みで出し入れできます。なお、M11には64Gの内蔵メモリーが搭載されていて、SDカードと内蔵メモリーを設定により、DNGとJPEGを分けて保存したり、DNGとJPEGを内蔵メモリー優先保存に、SDカード優先保存、DNGとJPEGをSDと内蔵メモリーにバックアップなどと好みに応じて選択保存できるように設定できます。今回の撮影では、JPEGですべて保存をSDカードに行いました。

 

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≪バッテリーの充電≫ 左は、純正の電源変圧器。入力:AC100~240V、出力:5Vと各社のカメラ用充電器、スマホ用充電器と大きく変わることはない規格で、「USBタイプA⇒タイプCコード」で専用のバッテリー充電器(バッテリースタンド)にセットして充電を行います。この純正の充電器を介した状態で、タイプC側コネクターをボディに直接つないでも充電は行えます。右の写真は、試しにサードパーティー「GREEN HOUSE」の携帯バッテリーと100円ショップで買った“タイプA⇒タイプC”コードを介してボディ内バッテリーへ充電してみましたが問題なく行えました。したがって市販のスマホ用充電器や車からの電源からもチャージはできるわけです。必要以上に長く、太いコードより、短い“タイプA⇒タイプC”コードの方が取り回しはいいです。なお、右の写真でグリーンに点滅してる部分は「ボトムランプ」と呼ばれ、充電中やメモリーアクセス中に作動します。

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≪メニュー画面≫ ボディ背面左下の“MENU”ボタンを押してみました。見れば大体わかる感じですが、これにタッチパネル、セレクターボタン、センターボタン、サムホイールなどを操作して設定します。左の“LV”に打ち消し線が入っていますが、ライブビューを使わないモードにセットしています。その右“横長の□”は1コマ撮りですが、3コマ/秒の低速連写・4.5コマ/秒の高速連写を選べます。上半身マークはユーザープロファイル、“24/50”は50mmF2.4レンズが付いていることを表示してます。6ビットコード付きでないレンズを装着した場合には、“Uncoaded”とこの部分に表示されます。各機能は、マニュアルセットもできます。下列左はJPGをセット、その右はJPG+DGN、さらにその右はL・M・Sとファイルサイズを選択できます。その右はメモリーのフォーマット、一番右はメインメニューのリストです。この背面液晶は、指先のタッチによりスクロール、拡大・縮小などもできます。

 随分と前置きが長くなってしまいました。本当はまだまだ書かなくてはいけないのですが、以下さまざまな条件で撮影していくなかで各種技術を紹介していくことにします。

■クラシックから最新まで、各種交換レンズを使ってみました

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≪今回の撮影に使ったレンズ≫ 上 左から、ズミクロン35mmF2第世代(お気に入りだから)、ズマリット35mmF2.5(6ビットコード付きだから)、ズマリット50mmF2.4(6ビットコード付きだから)、フォクトレンダー・ノクトン50mmF1(最新2022年1月発売で大口径だから)、下左から、スーパーアンギュロン21mmF4(撮影可能かを見るために)、キヤノン25mmF3.5(周辺光量の減少具合を見るために)、ヘクトール135mmF4.5(距離計連動の限界焦点距離の感じをつかむため)。ここに用意したレンズは、ライカM11の特徴を見るために用意したものであり、これが所有のライカマウントレンズのすべてではありません。(^_-)-☆

■いつもの英国大使館の正面玄関を撮影

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≪ズマリットM35mmF2.5≫ F5.6・1/400秒、ISO-AUTO 64、AWB。ピント合わせはライブビューと拡大で行いました。画素等倍まで拡大した画像は載せませんが、わずかにほかのレンズより解像度が低い感じがしますが、これはピント合わせが甘かったのかもしれません。ただズマリットM35mmF2.5の描写は柔らかな描写とボケ味が特長なので、そのあたりとの兼ね合いであり、ふだん使っている限りはまったく不足は感じませんし、むしろ好みの描写特性です。現行品にはこのほかに、ズミクロンM35mmF2 ASPH.、APOズミクロン35mmF2 ASPH.もあるので、価格に合わせて描写の異なるのも納得いきます。

 いままでライカのレンズの設定絞り値はメモしておかなくてはなりませんでしたが、6ビットコード付きのレンズの場合には「算出された大まかな絞り値をExifファイルに記録する」ということでしたので、Exifデータを読むとF5.6とでてきました。この設定絞りのF値は、撮影データを何で展開するかによって異なり、Exifデータを読めてもF値を表示できないソフトもあるので注意が必要です。ちなみにズマリット50mmF2.4で同じ場面を同じ絞り設定で撮影してみましたがF5.6とExifデータは記録されました。手元にあったM9では設定より半段ほど違う値がでましたが、撮影条件の違いか、ボディの違いによるのかは判りませんが、「算出された大まかな絞り値をExifファイルに記録する」ということなので理解しました。この設定絞り数値の表示はないよりはあった方が絶対いいわけで、私のように絞り値変化の描写を楽しむ者にとっては便利です。“ライカというと使用レンズはオールドレンズ”という思い入れが強く、6ビットコード付きレンズは焦点距離Exifへの書き込み、広角では周辺光量の補正というレベルの認識でありましたが、反省です。

■M11のCMOSセンサー

 ライカM11の特徴に撮像素子であるCMOSが基準感度ISO64であることがあげられています。ライカの場合には大口径レンズを開放絞りで使うことも多く、ISO感度が低く設定できることは、最高シャッター速度にもよりますが高輝度撮影環境下でも絞り開放での撮影が可能となります。また、RAWデータであるDNGの解像度が、60Mピクセル、36Mピクセル、18Mピクセルと選択できるのにどの解像度でもすべてのピクセルを使うトリプルレゾリューションテクノロジーという技術を使い、高いディテールの再現と幅広い感度を実現したというのです。

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≪トリプルレゾリューションテクノロジーとは≫ 左はライカカメラ社のカタログからの転載ですが、60Mピクセル(9504x6320)、36Mピクセル(7392x4896)、18Mピクセル(5248x3472)それぞれが、単純に画素が間引かれるのでなく、複数画素を組み合わせを変えて低解像度としているので、1ピクセル当たりの面積が広くなるので階調再現が良くなり高感度が可能になるというのです。右の写真は、ライカMマウントの高解像度レンズをF2.8にして60Mピクセルと18Mピクセルで撮影した画面中央付近の描写を画素等倍近くに拡大したときの描写ですが、この撮影ではその差を見出すことはできませんでした。その差が著しくでるようだと逆に問題なのかもしれません。なお、撮像素子の前面には極薄のガラスを2層に重ねたUV/IRカットフィルターが配置されていて、薄いことにより急な角度で入射する光線も効果的に取り込むことができるとされています。

■M11は撮像面測光

 ライカがデジタルになって歴史的な一部広角レンズではTTL測光ができなく、私の場合にはスーパーアンギュロン21mmF4が使えなく、すっかりその存在を忘れていましたが、M11ではどうだろうかということが一部で盛り上がっていましたが、レンズ後部やガードがシャッター幕に物理的に接触するようなことがなければ、原理的に考えるとM11は撮像面測光なので問題なく撮影できるだろうと考え試してみました。

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≪M11とSUPER-ANGULON 21mmF4≫ F5.6・1/320秒、ISO-AUTO 80。巻頭の英国大使館の撮影を行ったときにスーパー・アンギュロン21mmF4でも撮影してみました。ご覧のとおり写ります。周辺光量の低下は裏面照射型CMOSセンサーなのでまずまずですが、これが一時代前の同じフルサイズのM9では測光センサーをレンズ本体が邪魔するのでまったく使えませんでした。この撮影データのExifを読んでみると、焦点距離は0mm、開放絞りはF4、設定絞りはF5.6とでました。6bitコードのないレンズですが、偶然でしょうか?実写でもう少し追いかけてみる必要がありそうです。f:id:ilovephoto:20220220124131j:plain

≪M11とM9の測光機構≫ 左:撮像面測光のM11には暗箱内部にはセンサーはないのです。右:M9のシャッター幕面は上下中央は白色に近い薄いグレーで、上下は18%グレーに塗装されています。この部分を暗箱下部から測光するので中央部重点測光となると考えられます。測光センサーはメインの中央以外に小さいのが2つ配置されていますが、それぞれの役割は不明です。右下のインサート画面は、別の場所でM9にスーパー・アンギュロン21mmF4で撮影した画像ですが、まったく使えないのがわかります。

■さまざまな場面で撮影してみました

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≪ズマリットM35mmF2.5:「目」≫ F4・1/160秒、ISO-AUTO250、AWB。なかなか都心には出にくいですが、用事のついでに撮影しました。銀座和光のウインドウディスプレイ。2022年はトラ年ですが、トラの目が時々動くのが愛嬌です。6000万画素と高画素ですから拡大するとトラの毛のふさふさなところ、磁器のティーカップなどの絵柄もしっかりと描写されています。(銀座にて)

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≪ズマリットM35mmF2.5:表具店の店先≫ F5.6・1/350秒、ISO-AUTO64、AWB。看板の白い文字に影響を受けてでしょうが、コントラストの高い画像として仕上がっています。プリント時の拡大倍率にもよりますが、濃度域の広いしっかりとした画像に仕上がっています。(川越にて)

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≪ズマリットM35mmF2.5:トルコ人地鎮祭 F5.6・1/180秒、ISO-AUTO64、AWB。昭和レトロな洋館長屋のような川越の建物ですが、ここ数年で街全体がさらなる観光地化に向けてリニューアルされています。しかしトルコの旗で囲われた地鎮祭も、東京近郊の観光地川越ならではの光景でしょう。(川越にて)

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≪ズマリットM35mmF2.5:モグラの巣穴≫ F8・1/225秒、ISO-AUTO64、AWB。冬枯れした草木を見ながら川べりを歩き、増水で枯れ草の絡んだ木など数カット撮りましたが、何となく寂しい感じが多く、どうにか納得できたのがモグラの巣穴でした。“春よ来い”といった気分です。(東村山にて)

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≪ズマリットM50mmF2.4:ミツマタの花のつぼみ≫ F4・1/640秒、ISO-AUTO64、AWB。VGA画像ではわかりにくいですが、中心の花のつぼみにはしっかりピントがきていて細かい産毛まで分解しています。ミツマタは和紙の原料となりますが、花は黄色く可憐です。

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≪ズマリットM50mmF2.4:ひな人形≫ F5.6・1/3秒、ISO400、AWB。ご近所を歩いても冬枯ればかりです。少し歩いた先にキャベツ畑がありましたので、パチリしました。ここで不思議なことを気づきました。撮影後、PCでデータを整理していると、泥の粒子のような部分を徐々に拡大していくと、他社とは異なり早く溶けたようなヌメットした描写になるのです。当初は、撮影レンズの解像力が低いからなどとも考えましたが、どうしても不思議なので、同じレンズを使って、同じ6000万画素数ソニーα7RⅣで同じ場所にピントを合わせて撮影して確認するとライカM11はα7RⅣより早く溶けたようなクリーミーな描写になるのです。冬枯れの腐ったキャベツの葉っぱではどうも画になりにくいので、改めて別な場面でとひな人形をチャートに撮影してみました。

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左:ライカM11(F5.6・1/3秒、ISO400、AWB)、右:ソニーα7RⅣ(F5.6・1/3秒、ISO400、AWB)です。条件を同じにするために絞り値、ISO感度を400にそろえました。どちらもJPEGのLサイズですから、画素数的には、M11が9504×6320ピクセル、α7RⅣは9504×6336ピクセルで、ほとんど同等なわけです。色再現の特性はライカが見た目より鮮やかに、ソニーはオリジナルに近く渋めです。同じ拡大率でM11がメルティング状態になるのか拡大率を徐々に変えてみたのが上の比較です。拡大率はPhotoshopで66.7%です。いろいろ素人なりにその違いを考えましたが、画像処理に対するそれぞれの社の違いかと思われますが、英国大使館のエンブレムの拡大描写が何となくあまくみえたのも関係ありそうです。いずれにしても通常の作品制作プリントでは発色具合は別にして、同じ6000万画素のライカソニーも差はでないと考えます。

■ビゾフレックス2

 別売アクセサリーとして用意されたライカの外付けEVFは、ライカならではの歴史的な名称ビゾフレックスとつけられています。ライカM(Typ240)の時から「VISOFLEX」の1型が用意されていましたが、M11用には「ビゾフレックス 2」と新しくなりました。写真に示しましたが、大型になりアクセサリシューへの専用接点もシンクロ用の3点のほか16点もあるものです。「ライカM」のときは、ライブビューがないので理解できましたが、一見するとM11では不要ではとも思いましたが、しっかりとファインダーで覗いてピントを合わせたり、細かく構図を決めたりするのには必要なのでしょう。価格は約10万円です。

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 上の写真左は、ビゾフレックス2をアクセサリーシューに差し込み、少し上に向けましたが、このようにするとローアングルでの撮影も可能となるのですが、上に向けないままではしっかりとのぞけてライブビュー撮影するときはアイレベルのEVFとして機能します。手前を下に押し込むと手前左右にある強力なマグネットにより固定され不用意に上がるようなことはありません。右の丸いのは視度補正用ダイヤルです。写真右は、アクセサリーシューの電気接点を示しましたがストロボシンクロ用の奥には16もの接点があります。

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≪ビゾフレックス2のアングル≫ ズマリットM50mmF2.4、F2.4・1/1000秒、ISO-AUTO64、AWB。ビゾフレックスは、本来は距離計連動範囲外の望遠レンズを使うためのアクセサリーとして用意されましたが、デジタルライカになってはライカM(Typ-240)の時にビゾフレックス1が用意されました。その時は単なる外付けEVFとして機能させて使いましたが、2型では視野範囲も広くなったので植木の中にM11を入れて目を離して50mmの最短撮影距離7cm近くで撮影したのが上の作例です。被写体はツツジですが、妙に黄色く見えますが、誇張はされた発色ですが、季節柄実際にこんな感じです。

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≪ズミクロン35mmF2、第2世代≫ 新宿西口の空:F5.6・1/350秒、ISO-AUTO 64、AWB。1969年製、私のお気に入りのライカMレンズ、古いのにさすがの描写です。

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キヤノン25mmF3.5(Screw)≫ 横浜市民ギャラリーあざみ野:F8・1/296秒、ISO-AUTO 100、AWB。1956年に発売されたトポゴンタイプの当時としては明るい超広角レンズで、薄くて、かさ張らないので時々持ち出します。フィルム時代は特に問題なく使えましたが、デジタルになり、当初は周辺減光が強かったですが、M11は裏面照射タイプになり周辺の減光も目立たなくなりました。(横浜市にて)

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ヘクトール135mmF4.5≫ F4.5・1/400秒、ISO-AUTO 64、AWB。白蛇のミニチュア。ライカ距離計連動機の焦点距離限界の135mmでの撮影は特に問題ありませんが距離計で行いましたが、もっと遠景をねらったほうが良かったのでしょうが、この日の撮影で気に入ったのはこのカットでした。さすが135mmF4.5での最短撮影距離1m近くでは深度も浅くなりました。(川越にて)

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フォクトレンダー・ノクトン50mmF1≫ F1・1/320秒、ISO-AUTO 250、写真展会場でお会いした写真大先輩の柳沢保正さんをパチリと撮影させてもらいました。大口径ながら大変シャープなレンズですが、合焦ポイントを外れた前後に細かい線状のものがあると、拡大率を上げると色収差が発生するのは致し方ない部分ですが、これも極端にトリミング拡大でもしない限り実用上はまったく問題ないでしょう。

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≪ISO6400をチェック、新宿ゴジラ通り≫ ノクトン50mmF1、F5.6・1/640秒、ISO 6400、AWB。ライカM11の最高ISO感度はISO50000ですが、トップカバーの感度ダイアルにはマニュアルの数値でISO6400が刻まれています。今回の撮影では、他のカットはすべてISO-AUTOで撮影していますが、ここではあえてISO6400の描写を見るためにマニュアルで設定していつもの場所で撮影しました。ピントはゴジラの顔に合わせましたが、ほとんど無限遠状態でした。

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上の写真をゴジラの顔を画素等倍でクロップしてみました。ISO6400ですからどうだろうかと思いましたが、わりとノイズがのりやすい印象を持ったので、同じ照度下で、被写体、撮影レンズ・絞り値など条件をそろえて同じ画素数の機種と比較撮影してみますと、ノイズがわずかにでやすいのを確認しましたが、やはりその差はきわめてわずかで、プリント仕上げということでは実用的には大きく変わらないでしょう。

■距離計連動カメラとしてのM型ライカ

 今回のライカM11は、手強いカメラでした。何がと問われると、あげれば切りがないのですが、かつて一眼レフが全盛の時代にはライカの良さは何かと聞かれると、80年も前のレンズが距離計に連動して使えるからなどと答えていましたが、M型ライカよりフランジバックの短いミラーレス一眼がでてきてからは、古いレンズが使えるというのはマウントアダプターが用意されたことにより日常となりました。この結果、ライブビューで撮像面で正確なピントを合わせができるようになり、多くの人々に新しい写真の楽しみ方を提供することができるようになったのは誰もが認めることでしょう。

 そこで、改めてM型ライカの魅力は?と問われると、やはり連動距離計が組み込まれているから、ということになるのです。2006年発売のライカM8、M9、M(Typ-240)と使ってきましたが、改めてこの時期M11を使ってみると、M(Typ-240)から大きな変化がありました。その1つが、ブライトフレーム枠を電気的な照明にしたことです。M11ではカメラをONにしてスイッチを入れて、ファインダーフレームがでてピントを合わせるのですが、速写性ということからはワンタイミングずれるのです。また電源をつねにONにしておけば、シャッターボタン半押しで撮影が可能となるのですが、長らく押していないとスリープするので、シャッターボタン半押しか、電源を改めて入れなおすという作業が必要となります。このあたりM(Typ-240)を使っていた時にはあまり気にならなかったのですが、M11ではなぜか気になるのです。これは測光方式が撮像面測光になったことなどと関係あるのかもしれませんが、起動がわずかに遅くなったような感じがするのです。さらに、せっかくここまで電子化したなら、少なくとも6ビットコード搭載のレンズを装着の場合には焦点距離情報を取り込んでいるわけですから、ファインダーフレームの表示は採光窓時代からの35+135mm、50+75mm、28+90mmのダブルフレーム表示ではなく、装着レンズそのもののフレーム表示だけでも良いような気がしますが、M型を求めるユーザーはそれで納得するかどうかは難しいです。

 とはいってもデジタルのミラーレスライカですから、背面液晶かビゾフレックスでのピント合わせですと見えるのは撮像範囲だけですから、より目的にかなった撮影ができるというということになります。このピント合わせは、①距離計による方法、②背面液晶による方法、③ビゾフレックス2による方法、さらに①と②では移動可能な拡大表示、ピントが合った部分を色表示するフォーカスピーキング機能があるので、どのピント合わせ方式を使うかはもちろんユーザーが決めるのですが、せっかくレンジファインダーのライカを求めたら距離計部分の合致で素早くピントを合わせをするのがM型本来の魅力だと思うのです。他のピント合わせ方式を使うと、最新ミラーレス一眼機と同じような機能を持たせていることで、ミラーレスのフォーカス機能を使い込むほど神経を使う部分が増え、距離計連動ライカの良さが遠のいて行ってしまう気がするのですが、いかがでしょう。レンジファインダー機の良さはピント合わせに対するその潔さが信条だと思う次第です。

追記)今回手間取ったのは、使い勝手がというか、GUIというか取扱説明書が難解なことでした。どこかに書いてあるかはわからずじまいでしたが、メインメニューのボタンを2回押し込むとサブメニューに飛ぶとか、初期設定がフォーカスピーキングがONのためビゾフレックスでは撮影場面によっては画面の大部分が赤く色づくとか(ピーキングの色とレベルは変えられるそうですが)、それをOFFにするために奥深い階層でやっと設定しても、いわゆる、決定ボタンが見つからなく、また元に戻るという繰り返しでした。結局、ライカ銀座に出向いて聞いてみるとシャッターボタンの半押しが、日本のカメラのセットとか決定にあたることがわかったのです。M9やM(Typ-240)はかなり直感的に使えましたが、2006年にデジタルRF機に参入以来16年も経つと開発者も若くなったからでしょうか?

 なお、本レポートを行うにあたり、購入したての機材一式を1月もの長期にわたり貸し出してくれた、写真仲間に感謝です。

(^_-)-☆ 2022/03/06